アオイサカナ

第一楽章 −月下の夜想曲−



 

「ポイントに到着しました・・・」

 月明りがスポットライトのように彼を照らし出す中、ヘッドパーツに内蔵されている通信機でベースに連絡を入れる。

 今いる場所は、街からかなり離れた所にあるクレーター。いつ出来た物かは知らないが、かなり大きな爆発があったのだろうと容易に想像がつくこの場所で、今回の任務・・・イレギュラーの処理が開始されるのだ・・・

『よし、イレギュラーが現れたらすぐさま攻撃できるよう準備しておきなさい・・・気を抜くな』

 通信機から総監の声が聞こえる。彼は目を閉じて深呼吸をし、翼を大きく広げ・・・

「・・・了解・・・」

 静かに答えてその場でホバリングを始めた・・・

 

 

「彼一人で大丈夫なのでしょうか・・・」

 司令室でオペレートをしていた一人が呟く。それを聞いた・・・このイレギュラーハンターギリシャ支部の総指揮官、アポロはそのオペレーターにむかって誇らしげにこう言った。

「まぁ見ていろ、あの子が自分の力を存分に発揮するには一人で行動するのが一番良いんだ。何も考えなくて良いからな・・・」

 オペレーターはそんなアポロの様子に『何故彼の事をこの人はそんなに解っているのだろう』と少々疑問に感じたが口には出さず、自分の仕事に戻る。モニターにはアポロが信頼する彼の後ろ姿が映っていた・・・

 

 

「・・・イレギュラー、肉眼で確認・・・戦闘体勢に入ります」

 そう言うと同時に彼は己の翼にエネルギーを溜め始めた・・・彼の周りに、特殊な『オト』が広がる・・・そして、彼の攻撃範囲内にイレギュラー達がさしかかり、彼に向かって攻撃を始めようとしたとき・・・

「・・・さて、音楽祭の始まりだ・・・」

 彼は両の手を高くかざした。まるでオーケストラの指揮者のように・・・

 

 

 イレギュラー達は理解出来なかった・・・自分達の目の前に現れた蒼いレプリロイド、考えなくともそのレプリロイドがイレギュラーハンターだという事はわかったが・・・その攻撃方法が理解できなかったのだ。

 相手が一人だという事もあって、何体かのイレギュラーが攻撃を仕掛けようとしたとき・・・そのボディが弾け飛んだ。ハンターは初めに見た所と同じ場所にいて、ただ両手を高く上に上げただけ・・・にもかかわらず仲間の体が弾け飛んだ。

「そいつ等は俺を攻撃しようとしたからそうなった・・・死にたくないやつは大人しく武器を捨て、降伏しろ。そうすればまた、普通のレプリロイドとして生活が出来るようになる・・・」

 ハンターの言葉に心の揺らぐ者もいた、だが・・・『今武器を捨てればヤツ等に殺される!!』イレギュラー達はまた彼に攻撃を仕掛けようとした。

「・・・交渉決裂・・・か・・・仕方ねぇ」

 彼はそう言うと、今度はマスクをはずし『ウタ』を歌い始めた・・・耳には聞こえない『ウタ』・・・そしてあの『オト』・・・イレギュラー達は次々に破裂していく。彼の『指揮』にあわせて・・・

 

 

「こ・・・これは一体・・・」

 モニター越しに見ていたハンター達も首を傾げるばかりで、何故イレギュラー達が破裂していくのかが解らなかった。ただ一人、アポロを除いて・・・

「そ、総監・・・これは・・・」

 一人のハンターが驚いたそぶりをまったく見せないアポロに尋ねる。彼は嬉しそうにそのハンターの問いに答えた。

「これがあの子の能力だ・・・自由に『音』を操る・・・な・・・あの子に掛かれば笛の音でさえも兵器になる」

 それを聞いて、司令室にいた者達は恐怖のあまり言葉を失った・・・彼がその気になれば・・・数千の兵士さえも一瞬にして破壊する事が出来るだろう・・・その『音』がとどく限り・・・

 

 

「・・・任務・・・完了しました・・・」

 静かにそう言った彼の周りには、原型を留めていないイレギュラーの残骸・・・赤黒いオイルの海・・・

『よくやった。疲れただろう・・・早く帰っておいで』

 総監の優しい声が通信機から聞こえ、彼は転送ポイントに向かって歩き出そうとしたが・・・

「へぇ、これ全部お前が倒したのか?」

 不意に後ろからかけられた声。彼は咄嗟に飛びのき、バスターを構えた。だが、そんな彼の目に映ったのは・・・

「エックス・・・隊・・・長・・・?」

 瓦礫に腰掛け、こちらを見ている少年とも青年とも呼べるその人物はそう呼ばれた事に何故か嬉しそうに笑って・・・

「おしぃ、俺はエックスじゃねぇよ。イクスってんだ・・・んで、お前の後ろにいるのがリリス」

 イクスと名乗った人物がそう言うと、後ろから彼に誰かが抱き付いて、耳もとで囁いた・・・

「・・・ねぇ・・・貴方のエネルギーとってもおいしそう・・・私に、ちょうだい・・・・」

 甘い声で囁かれ、彼の意識が瞬間的にトリップする。だが、すぐに我に返るとその細い腕を払いのけ距離をとる。そして・・・リリスと呼ばれた人物を見て・・・驚きを隠せなかった。

「・・・マリアちゃん・・・・!?」

 そう呟いた彼の頬にリリスは優しく手を添えると微笑みながら唇を寄せ・・・

「貴方、彼女を知っているのね・・・だったら最後に最高の夢を見させてあげる・・・」

 

 ・・・彼の意識は闇の中へと呑まれて行く・・・・







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