第ニ楽章 −暗闇から手を伸ばせ−
「一体何が起こったというんだ!!」 ちょうど彼の意識が闇に堕ちた時、司令室ではアポロの叫び声が響いていた。先ほどまで現場を映し出していたモニターが急に何も映さなくなったのだ。 「総監!最後に映された映像の解析終りました、表示します!!」 そしてモニターに映し出されたものを見て、アポロの表情が更に険しくなる・・・ 「何と言うことだ・・・何故『ヤツ』がここに・・・くっ・・・・ライフセイバーは待機、本部にも・・・すぐに連絡が出来るようにしておいてくれ・・・」 「あの・・・我々が出動した方が・・・」 控えめにそう言ったハンターにアポロは力無い微笑を見せ、 「あの子一人のために多くのハンターを失うわけにはいかんだろう・・・『ヤツ』は・・・いや、『ヤツ等』はここにいるハンター全員が束になってかかっても倒すことは不可能だ・・・」 その言葉にハンターはモニターに映っている人物を見て、ある事に気付く。 「エックス隊長に・・・似ている・・・?」 「・・・・ヤツの名は『イクス』・・・エックスのコピーのような存在だ・・・そして、イクスがいるということは・・・必ず何処かに『レイ』がいる・・・『赤い鬼神』ゼロのコピー・・・我々の戦力では勝つ事はおろか、生き残ることさえも困難だろう・・・・・・」 今にも泣き出しそうに言うアポロに、ハンターは聞かずにいられなかった。 「あの・・・・総監・・・彼、クロスと貴方の関係は一体・・・」 「あの子は・・・クロスは・・・私の末の弟だ・・・」 アポロの声はとても小さく・・・今の彼は威厳にあふれた総監ではなく・・・家族を失うことに恐怖している一人のただの男性になっていた・・・・・・ 『う・・・・ん・・・・眩し・・・・・・』 俺はあまりの眩しさに目が覚めた。眩しさの正体は窓から差し込んだ太陽の光、俺は今、ハンターベースの自分の部屋・・・ベッドの上にいる。 『ん?おかしいな、俺は今ギリシャ支部の方にいたんじゃなかったっけか?』 何気なく部屋を見渡して部屋の構造が本部にいた頃と変わっていない事に気がついた。俺はベッドから起き上がると、私服のまま廊下に出て歩きだす。 しばらく歩いていてここが本部内だと言う事に確信を持った・・・廊下や部屋の配置・・・なんだか物凄く懐かしい感じだ。もう、1年ほど戻ってないんだったかな? そんな事を考えながら俺はロビーに出る・・・・・ 『おかしいな・・・昨日の事が思い出せない・・・俺、いつここに戻ってきたんだろう・・・それに・・・何でこんなに『静か』なんだ?』 普通、人がいれば何らかの『音』が聞こえる。ハンターベース、それも本部ともなれば多くのハンターや依頼人、他にも研究員とか・・・とにかく数え切れないほどの人やレプリロイドがいるはずなのに・・・それが今はまったくの『無音』・・・聞こえてくるのは俺の足音だけ・・・ 『・・・とにかく、誰か見つけねぇと・・・』 俺はまた歩き出し、人のいそうな所を見てまわる事にした・・・ ・・・こっちよ・・・・ さぁ、早く来て・・・ 「ん?」 不意に誰かに呼ばれたような感覚・・・声が聞こえたわけじゃない、そんな感じがしただけ・・・だが俺はその『囁(こえ)』に向かって歩き出した・・・体が勝手に向かっていった・・・の方が正しいかもしれない・・・ ・・・クスクス・・・・ そう、こっちよ・・・ 俺は『囁』の聞こえて来る方へとどんどんと歩いて行く、足が・・・自分の物じゃないみたいな感じだ・・・ そして、ある部屋の近くまで来るとその『囁』が止まった・・・俺は恐る恐るドアの開閉ボタンを押す・・・扉が開いた瞬間、中からレプリロイド専用のオイルの匂いが溢れ出してきて・・・思わず数歩あとずさってしまった・・・ 『何なんだ・・・一体中で何が・・・』 そう考えたのも束の間、中に彼女が・・・マリアちゃんが倒れているのを見つけ、俺の体は反射的に彼女のもとへと駆け寄っていた。 「マリアちゃん!!」 彼女を抱き上げ、軽く頬を叩く。 「ん・・・」 彼女は小さくうめいて目を開けると、ゆっくりと俺を見上げた・・・ 「クロス・・・さん・・・?」 「ああ、そうだよ・・・大丈夫?」 「クロスさん!!」 よほど怖い思いをしたんだろう、彼女は泣きながら俺に抱き付いてきた。 「もう大丈夫だから・・・落ちついて・・・」 俺は彼女の背中をぽんぽんと叩いてなんとか落ちつかせようとした・・・けど・・・この部屋にこもっているオイルの匂い・・・これは一体どこから・・・・ 「ねぇ・・・マリアちゃん・・・・・・・一体何があったの?」 彼女は俺に抱き付いたまま、部屋の奥を指差した・・・部屋の奥は真っ暗でなにがあるのか、はじめのうちはわからなかったけど・・・闇に慣れて来た俺の目に映ったのは・・・・ 「・・・・ハ・・ルト・・・?」 ・・・赤黒いオイルの中に・・・ひび割れた純白のアーマー・・・変わり果てたその姿は・・・間違いなくあのハルトだ・・・ 「おい!ハル・・・・!?」 彼に駆け寄ろうとした時、マリアちゃんが俺の腕を掴んでそれを阻止した。 「行かないで・・・」 彼女は俺の腕にしがみついてそう言うとそのまま黙りこんでしまった・・・ 「どうして!?このままじゃハルトが!!」 「・・・もういいの・・・どうせ助からないから・・・・」 『なん・・・・だって・・・・?』 「だからお願い・・・貴方は、『ぼく』のそばにいて・・・」 ・・・・普通の男なら彼女のこんな顔に完全にK.Oされてるだろうな・・・だが、俺は・・・ ドンッ!! 「きゃっ!」 彼女を思いきり突き飛ばして戦闘体勢に入る。 「どうしたの?クロスさん」 「お前・・・何者だ・・・・」 俺は彼女・・・いや、彼女の姿をした『何者か』を睨みつけた。 「何を言ってるの?ぼくはマリアだよ?」 「嘘をつくな!!彼女が・・・マリアちゃんがハルトを見捨てたりするもんか!!」 そう、彼女はたとえ相手がハルトじゃなくても傷ついた者を見捨てたりなんかしない!たとえ助かる可能性がゼロ%に等しい状況でも、彼女は救助を止めたりなんかはしない・・・ 「・・・・・・あぁ〜あ、バレちゃった・・・」 彼女の姿をした『ヤツ』はそう言ってゆっくりと立ち上がった。俺は構えて攻撃に備えたが・・・ 「貴方も騙されたままだったらとっても良い思いが出来たのに・・・ばかねぇ」 次の瞬間『ヤツ』の姿にノイズが走る。 「!?」 いや、この空間全体が歪み出した!?・・・そして、『ヤツ』が空間に完全に溶け込むと同時に・・・俺の意識が一瞬にして暗闇の中に放り出された・・・・ 「なー、レ〜イ〜」 多くのもとはレプリロイドだった残骸の中。瓦礫に腰掛け宙に浮いた足をぶらぶらさせながら、イクスは相棒のレイを呼んだ。 「んん〜?」 呼ばれて返事をしたのは長い銀の髪を後ろでくくった『美しい』と言う表現がぴったりと当てはまる青年。 「リリス、一人で大丈夫かなぁ?」 そう言って視線をやった先には・・・人一人がすっぽりと納まるくらいの大きさの赤黒い球体が浮いていた。それはまるで、血液が球体となって浮いているような・・・見ていてあまり気分の良い物ではない。だが・・・それを見つめるイクスの顔は、愛しい者を見るように優しく微笑んでいる・・・ 「まぁ、あいつもかなり『完全体』に近づいてきているからな・・・大丈・・・」 レイがそこまで言った時、急にその球体からリリスが飛び出してきた。 「リリス!?」 イクスは瓦礫から飛び降り、リリスに駆け寄る。 「何があったんだ!!大丈夫か!?」 「イクス兄様・・・失敗しちゃったわ・・・でも・・・・彼のエネルギーますます欲しくなったの・・・ねぇ、兄様達も手伝ってくれない?」 甘えるような声でリリスは2人の兄にお願いをする。 「ったく、しょうがねぇなぁ・・・」 レイはそれだけ言うと闇にまぎれ己の気配を完全に消す。 「奴は、まだ中にいるんだな?」 イクスの問にリリスはこくりと頷くと、球体に目線をやり・・・ 「もうすぐ・・・出てくると思うわ・・・」 バキッバキバキバキ・・・・ブシャァァァァァァ!!! リリスが言ったのとほぼ同時に球体が割れ始め・・・中から勢いよく赤黒い液体が溢れ出してきた。そして・・・ 「ぐ・・・はぁ・・・あ・・・・」 ズル・・・・ビシャ!!! 球体の裂け目から彼・・・クロスが這い出てきた・・・その海のように青いボディは赤黒い液体で汚れ・・・力なく地面に崩れ落ちた彼は・・・ 「ぐっ・・・はっ、はっ・・・ゲッ!ゲホッゲホッ!!」 「クスクス・・・だから言ったでしょ?あのまま騙されてれば、苦しまないで逝けたのに・・・」 膝を付き、激しく咳込み体内に入った液体を吐き出している彼の前に歩みより、リリスが優しく呟く。そんな彼女をクロスは激しく睨みつけ、 「ぐっ・・・このっ・・異常者(イレギュラー)がっ!!」 息を荒げながら、それだけ言うのが精一杯な状態で・・・だが、彼は屈していなかった。本部にいた頃に学んだ・・けして諦めない心・・・ 「素敵よ・・・貴方みたいな人のエネルギーって、格別に美味しいの・・・残さず食べてあげるわ・・・・」 |
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