アオイサカナ

第三楽章 −雲路の果て−



 ガッ!キュイン!!

 

 振り下ろされた鉄扇をなんとかバスターで受け流し、その反動を利用してリリスに蹴りをいれる。

 

 ヒュンッ

 

 だが、リリスはその攻撃を難なくかわす。クロスの右腕は既に砕かれていて、だらんとぶら下がっている状態だ。

「へぇ、貴方なかなかやるじゃない。あそこから出てくるだけでも凄いのに直後にこれだけ動ける上に片腕で戦いつづけるなんて・・・素敵よ」

 彼女は相変わらず、うっとりとした微笑を浮かべながら言う・・・

「んじゃ、次はコイツでどーだッとぉ♪」

 イクスが瞬間的に闇に消え、クロスの身体を包みこもうとするが・・・

「・・・なめるなぁ!!」

 

 フィォォォォォォォン!!

 

 一瞬耳鳴りのような音がしたかと思うと

 

 バシュゥ!!

 

 クロスの身体を包もうとしていた闇が吹き飛んだ。

「ヒュー・・・・やるじゃん♪」

 だが、イクス自身はまったく気にしていないようで、ぺろっと・・・先ほどの衝撃で傷付いたのであろう己の手をなめた。辺りはうっすらと明るくなり始め、夜明けが近い事を告げている。

『・・・くそっ・・・体力がもたねぇ・・・このままじゃ俺が殺られるのも時間の問題か・・・だったら・・・』

 クロスは2人と距離を取り、ウィングの出力を上げ始め・・・

「これで・・・終わりにしてやる・・・」

 言いおわるよりも早くその空間に変化が現れた・・・

「これが『俺達』の鎮魂歌(レクイエム)だ・・・・いくぜ、カール・マリア・フォン・ウェーバー『魔弾の射手』」

 彼は折れていない左腕を高く上げ『指揮』を始めようとした、だが・・・・

 

 ドシュ!!・・・・・

 

「あ・・・」

 

 食道を熱い物が逆流する、口からはそれが溢れ出し・・・口を押さえた手を赤く染めた・・・

「おっと、悲鳴で衝撃波でも出されちゃかなわんのでな、しばらく黙ってってくれ」

 自分の背後から男の声がして、赤く汚れた口を押さえられ・・・自分が刺されたという事を理解する。

『何故だ!?普通物が動くときには必ず何かしらの『音』が聞こえる。だが、この男からはまったく『音』が聞こえなかった!』

「ん?何でって顔してるな・・・・教えてほしいか?」

 男はそう言うとクロスの腹部を刺しているセイバーをグリッとまわす・・・

「ん゛う゛!!」

 クロスはなんとかその男から逃れようともがくが・・・その男の力は強く、腕は微動だにもしない・・・

「・・・闇の真の怖さを知っているか?・・・・」

 男は耳元で囁くように喋り出す・・・

「・・・真の闇が恐れられる理由はな・・・・光はもちろん・・・音さえも通さない・・・真の孤独があるからなんだよ・・・お前の自慢の『音』さえも・・・闇の前では無力と言うわけだ・・・・」 

 ヘッドパーツに内蔵された通信機から兄の声が聞こえる、だがその叫び声さえも遠くに聞こえ・・・

「・・・に・・・いさ・・・・」

 そして彼の身体から力が抜ける・・・

『リング・・・ごめん・・・な・・・・』

 彼の瞳から光が消えていく・・・・・

 

 

 司令室のモニターが映し出した映像は、あまりにも衝撃的で・・・

「ク・・ロス・・・・・・・クロス!クロス!!しっかりするんだ!!!」

 弟の身体から力が失われていくのがわかる・・・叫ばずにいられなかった。無駄な事だ、もう助からないと分析する電子頭脳、だがそれを否定する『心』・・・総指揮官としての責任、兄としての自分・・・もう、頭の中はぐちゃぐちゃになっていた。

「・・・総監?この騒ぎは一体・・・・・」

 不意に司令室の扉が開き、一人の少女が入ってきた。その少女を見て、アポロは慌てて彼女の前に立つ・・・画面が見えないように・・・

「リング・・・どうした?今日は本部に行ったのでは・・・」

「はい♪でも、クロスさんに早く会いたくて戻ってきちゃいました」

 照れながらそう言う彼女にアポロの心がえぐられるような痛みを感じた・・・

「あの、さっきクロスさんの部屋に行ったんですけど・・・いなくって・・・今、任務中なんですか?」

「・・・・クロスは・・・」

 なかなか答えてくれない総監の様子に疑問を感じながら、何気なくモニターに目をやる・・・総監の体で全体を見ることは出来ないが、その画面に映し出されているのもを見た瞬間・・・

「クロスさ・・・ん?」

 リングが見たもの、それは愛する人の身体が糸の切れた人形のように地面に叩きつけられる瞬間・・・

「リング!!見るんじゃない!!」

 総監の静止も聞かず・・・彼女はモニターへと近づいて行く・・・

「う・・・そ・・・・」

 彼の身体はピクリとも動かない・・・

「・・・い・・・・や・・・・嫌よ・・・・」

「リング!!」

イヤァァァァァァ!!!!

 リングの体から力が抜け、その場に倒れそうになるのをアポロが受けとめる。

「ライフセイバー!すぐにこの子を治療室へ!」

 彼女をライフセイバーに託した、ちょうどその時だった。

「総監!奴らの動きが変です!」

 オペレーターの声でモニターを見る。画面の中ではレイ、イクス、そして始めて見る少女の3人がクロスを囲んでなにやら話し合っているようだ・・・

「・・・音声・・・拾えるか?」

「やってみます・・・」

 程なくして、スピーカーから聞こえてきた会話の内容・・・

 

『・・せっかくここまでやったのに?』

『仕方が無いだろう、もう夜が明けてしまった・・・これ異常外にいるのはお前の体に影響を及ぼしかねん』

『そうだぜリリス、それにこのくらいの強さのヤツだったら本部の方にもッといっぱいいるじゃねぇか』

『・・・この人、結構いい感じなんだけどなぁ』

『諦めろ・・・さぁ、帰るぞ』

『はぁ〜い・・・・』

 

 そして3人は闇の中に消えて行く・・・後には傷付きボロボロになったクロスが横たわっているだけ・・・

 

「レーダーにヤツらの反応は!?」

「完全に消滅!どうやら本当に立ち去ったようです」

「よし、ライフセイバー!直ちに現場に向かえ!!お前達は本部に連絡!ユーマを呼べ!急ぐんだ!!」

 

 ・・・画面の中にいる・・・彼の身体は動かない・・・







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