FIRST <後編>



「全く・・・貴方という人は・・・・」

 真っ白な病室で、ベッドに横たわる男を見ながら彼、アポロが呟いた。

「・・・人の気も知らないで・・・無茶ばかりして・・・・・」

 ふぅ・・・とため息をついて、窓の外を見る。美しい月の光に吸い寄せられるように彼は窓を開けた。

 開いた窓からは爽やかな風が流れてきて、ほんの少しだけ沈んだ気分が浮き上がる。

「・・・・・・」

 不意に呼ばれたような気がして振り返る。すると、ベッドの上で寝ていたはずの男と目が合った。

「インドラ・・・目が覚めたのですね。喉、乾いていませんか?」

 いたわるように話し掛けるアポロに手を借りながら体を起こしたインドラは、ゆっくりと口を開いた。

「わい・・・・・助かったん・・・・か?」

 その問いに、アポロは優しく微笑みかけ、

「ええ、ギリギリ、といった感じでしたが・・・でも・・・本当に・・・良かった・・・・」

 最後の方は俯いて言う彼に、インドラは無償に愛しさを感じて・・・その頭を優しく撫でた。

「・・・えらい心配かけたみたいやなぁ・・・すまんかったな・・・・・」

「・・・本当ですよ・・・・」

 頭に乗せた手をそのまま頬に移動させ、俯いたアポロの顔を優しく上げる。すると、少し潤んだ瞳にぶつかる。ただそれだけの事なのに心臓(正確には動力炉)が跳ね上がった。理性が吹き飛んでしまいそうだ。

「・・・なぁ、アポロ・・・」

「なんですか?」

「・・・お願いがあるんやけど・・・・ええか?」

 遠慮がちに言うインドラに、アポロが少し首をかしげる。その仕草があまりにも可愛く思えて、またどんどんと理性が削られていくのがわかる。

「いい・・・ですよ・・・その代わり・・・約束してもらえますか?」

「・・・何を?」

「・・・もう・・・あんな無茶な事はしないで下さい・・・私のせいで・・・貴方が傷つくのは・・・」

 あの時の・・・インドラが自分を庇った時の事を事を思い出してしまったのだろう、アポロの目に再び涙がたまる。そんな彼を優しく抱きしめ、あやすように背中をさすり、囁くようにこういった。

「・・・絶対、とは言えへんけど・・・なるべくがんばる・・・」

 その答えに一瞬アポロが自らの腕に力を入れ離れようとする。だが、インドラはそうさせまいと更に彼を抱きしめる腕に力をこめた。

「・・・あん時もそうやったけど・・・体が勝手に動いてまうんよ」

 少し腕に入れた力を緩め、アポロの顔を見て微笑むと、

「さすがに、条件反射は自分でもどうしょうもないしなぁ」

 と言ってにへらっと笑う。その顔に一瞬きょとんとしたアポロだったが、呆れたように、だが安心した微笑を返した。

「それで・・・インドラのお願いはなんですか?」

「あ、ああ・・・それはな・・・・」

 ボソッと、耳元で、相手にしか聞こえないように囁く。すると、アポロの顔が一瞬にして赤に染まった。

「な!?何言ってるんですか!!そんな事っ」

「ダメか?」

「だっダメです!!出来ません!!」

 顔を真っ赤にして出来ないと言い張るアポロに、インドラは物凄く寂しそうな表情を浮かべ。

「さっきええって言うたやんか・・・・・アポロ・・・わいに嘘つくんや・・・」

 イジケモード発動。抱きしめていたアポロから手を離し、彼に背を向けて大きくため息をつく。明らかに罠だとわかる態度だったが、アポロはまだ人を疑う事を覚えていないのでそんな彼の様子に胸を痛めてしまう。

「・・・・・・・・・・男同士でする事ではないでしょう?」

 だからと言ってすぐにOKを出す事も出来ない彼は、何とか諦めてもらおうとする。

「・・・そんなん関係ないねん・・・アポロとやからしたいねん・・・・・」

 だが、インドラも負けじと言い返してくる。

 しばらくそのまま黙っていた二人だったが・・・・

「ふぅ・・・わかりました・・・やりますよ・・・・」

 先にアポロが折れた。もちろんその瞬間インドラは心の中で万歳三唱していたのだが。ここでそれをばらしてしまっては先ほどまで落ち込んでいた事が策略のうちとばれてしまう。ここはもう少し我慢して・・・と、まだ寂しそうな顔をしたままアポロと向き合う形になると・・・

「ほんまにええの?嫌々やったら・・・わいかて嬉ないし・・・無理せんでええんやで?」

 と気遣うふりをする。が、心の中では・・・

 

 嫌々でもおっけーオッケー!!このままわいからしてもええんやけどVvって、それやったら意味ないし!!やってもらわな意味ないし!!って言うか萌え!照れ顔超萌え!!

 

 顔を赤く染め、照れたような表情のアポロを前にかなり暴走した思考を巡らせていたりする・・・

「正直・・・嫌ではないと・・思います・・・・自分でも良くはわかりませんが・・・・」

 あまり視線を合わせようとはしないが、嫌がってはいないその様子に気分を良くしたインドラは、心の中でガッツポーズをとりながら、

「ほな、やって・・・」

 と、アポロの腰を抱いた。

「あ・・えと・・その・・・で、では・・あの・・・目を・・・閉じてください・・・・」

 言われるまま目を閉じる・・・ふりをする(姑息)薄っすらと目を開けて、アポロが動くのを待つ。ここで焦ってはいけない・・・

 しばらくインドラの腕の中でおたおたとしていたアポロだったが、意を決して、小さく『よしっ』と気合を入れるとゆっくりと顔を近づけ・・・

 

 ちゅ

 

 軽く触れるだけのキス。顔を真っ赤にして、震える唇で幼いキスを一度だけすると、アポロはすぐに体を離そうとした。だが、

「アポロォ、まだか〜?」

 まるでまだされてないというように、インドラは彼の体を離そうとはしない。もちろんインドラ自身はわかってやっている事なのだが・・・アポロはインドラが気付いていないと信じ込みもう一度唇を近づける。

 

 ちゅ・・・・・・・ !?

 

 またすぐに体を離そうとしたが、出来なかった。アポロの頭をインドラがしっかりと押さえたのだ。

 インドラの腕の中でもがいて離れようとするが、軽いパニック状態に陥り、更に頭と腰をがっしりと押さえられているのでそれもかなわない。そうこうしているうちについばむような軽いキスからだんだんと深い物へと変わっていき・・・

「んっ!ちょっ、インドラッ!!」

 抗議の声をあげようと口を開けた瞬間舌が滑り込んでくる。その事に驚いてアポロの体が強張る。実はキス自体が初めての経験な為、頭がついていかなくなっていた。

「ん・・・・んぅ・・・・・・」

 だんだんとアポロの体から力が抜けていくのがわかる。

 完全に力の抜けたアポロから、ちゅっと音を立てて唇を離す。そして目を開けると、頬をピンクに染め瞳を潤ませとろんとした表情のアポロの視線とぶつかる。

 初めはキスだけにしておこうと思っていたインドラも、さすがにこの表情に耐えるだけの理性を持ち合わせていなかった(今まで散々削られていたせいもあって・・・)さらに、この場所は一人用の病室、時間も夜。人が来る気配もない。そして、極めつけは今、自分達はベッドの上にいるというこの状況。

 意中の相手が色っぽい表情で更にこんなに美味しい状態・・・これはもう・・・

 

 いただかなきゃ男じゃないでしょう!!!

 

「・・・アポロ・・・」

「な・・・・なんです・・・か?」

 アポロが言い終わるよりも早く、彼をベッドに押し倒す。

「わい、もう我慢でけへんわ・・・ええやろ・・・?」

 そう言ってまた顔を近づける・・・

 

 ぼふっ

 

 一瞬何が起こったのかわからなかったが、どうやら枕で拒まれたようだ。白くてふわふわした枕を顔に押し付けられた。

「アポロ?」

「・・・・ダメです。そういう事は、本当に心の通じている男女がする事です。それに、貴方、先ほど自分でも言っていたじゃないですか・・・貴方は怪我人なんですよ?」

 経験はなくとも知識はもっているらしい。今から何をされるのか気付いたアポロは説教をはじめた。

「・・・せやかてなぁ・・・・っとお?」

 言われた事にこちらも抗議しようとした瞬間、体が反転しベッドに押し倒され、顔を枕で抑えられ・・・

「ダメな物はダメです!貴方は早く体を直す事を考えてください!」

 先ほどまでのいい雰囲気はどこへやら。完璧に説教モードに突入してしまった・・・

 仕方がないので、枕を頭の後ろへ移動させ自分の上で説教を続けるアポロに視線をやる。・・・まだ先ほどの熱が引いていないのか、頬がほんのり赤く染まっているのがわかった。

 それを見たインドラは、ニヤリと悪戯を思い付いた子供ものような笑みを一瞬だけ浮かべ、すぐ真剣な顔に戻ると・・・

「・・・わーった、わーった。もうやらへんさかいに・・・そろそろ勘弁したってや・・・な?」

「・・・本当ですか?」

 降参、というように両手をあげて言うインドラに、アポロは説教を止め、念押しをする。

「ああ、やらへん」

「わかりました。では、私もそろそろ帰りますね。ちゃんと安静にしていてくださいよ?」

 アポロはインドラをまたいで膝立ちになった状態で説教をしていたので、体を下ろそうと、一度両手をベッドにつく状態になる。つまりそれは、インドラの上に覆い被さっている状態で・・・インドラにとっては絶好の悪戯チャンス。

「ん?どないしたん?(ニヤリ)」

「インドラ・・・貴方という人は・・・・・(怒)」

 心なしかアポロの声が震えている・・・その原因はもちろん、今彼の下にいる男のせいなのだが・・・

「・・・どこを・・・触っているのですか?」

「ん?どこって、ふ・と・も・もVv

 悪びれたようもなく、喜々としてアポロのふとももを撫で上げる。しばらく太ももを触っていたインドラだったが、調子に乗ってその手を徐々に上に上げていく。

!?インドラ!!」

「だ〜いじょおぶやって♪痛くせやへんさかいにVv

「そういう問題じゃないです!!っあ!」

 ある部分に手が触れたとき、アポロは驚いて声をあげた。

「体の力抜きや、すぐ気持ちよぉしたるさかいにな・・・・」

 耳元で囁かれ、びくっと身を引く。

 

 こ・・・このままでは・・・流されてしまう!!(汗)

 

 そう危機感を感じたアポロは最終手段に出る事にした。

「・・・あまり・・・こういう事はしたくなかったのですが・・・」

 そう言って彼の胸の上へ手を添える。

「ん?」

「お仕置きです」

 言うが早いか、胸に添えた手に軽く力をいれて押す。

!?#$&%$#&%$&#%$!!!!!!!(声にならない悲鳴)」

「だから言ったでしょう?貴方は怪我人なんです。ちゃんと安静にしていてくださいね?」

 そう言うとベッドから降り、荷物をまとめる。

「また明日来ますけど、今度こういう事したら、入院期間が延びるだけですよ?では、失礼します」

「〜〜〜〜〜〜†(屍)」

 

 

 

 アポロが出て行ったから数分後、窓から入ってくる心地よい風に髪を揺らし、インドラは一人考えていた。

 

 『口に・・・キス、してや・・・』

 

 何故あんなことを言ってしまったのか・・・自分は同性愛者ではないはず・・・女を普通に抱く事も出来るし、不自由もしていない・・・しかし、あの時は確実に彼からの口付けを欲している自分がいた。

 初めは、触れるだけのキスでいいと思っていた・・・だが、実際キスをされると心の奥からもっともっとと欲求が膨れ上がり・・・軽いキスはだんだんと深い物に・・・挙句、欲望のままに彼を押し倒してその全てを手に入れようとした・・・相手の気持ちも考えず・・・

「あかへんなぁ・・・男相手に何してんのやろ・・・・って言うか、焦りすぎやん・・・・かっこ悪ぅ・・・」

 思い返して自己嫌悪に陥る。嫌われたかもしれない、もう顔を合わせることも出来ないかもしれない・・・思考がどんどん悪い方へと向かっていく。

「・・・最悪や・・・ほんま・・・・」

 仰向けに寝ていた体を横にして、お仕置きと言われて押された胸に手を当てる。軽く押されただけなのに、激しい痛みが走った事から内部損傷が激しい事を物語っている。

 ふと、最後に彼が言った事を思い出した。

 

 『また明日来ますけど、今度こういう事したら、入院期間が延びるだけですよ?』

 

 彼は『また明日』と言った。あんな事をされたのにまた明日来ると言ったのだ。

「・・・嫌われては・・・おらへんのかな・・・・?」

 そう考えたとたん、ふっと笑みがこぼれる。自分は嫌われていない。あんな事をしたにもかかわらず、嫌われなかった・・・

「・・・よう考えたらキスもしてくれとったやないか・・・ええ感情もっとらん相手にいくら頼まれても自分からキスはせんわな・・・普通・・・」

 先ほどまでの沈んだ気持ちはどこへやら。今は一変してかなり前向きな感情が彼の胸の中を埋め尽くしていた。

「・・・そうやん、まだチャンスはある・・・今度は焦らんと、ゆっくりしていけばいいんや・・・」

 そしてまた仰向けになると、目を閉じて呟いた。

「・・・愛しとるで・・・アポロ・・・」

 そしてそのまま眠りについた。幸せになれるよう願いながら・・・・・

 

 

 END



後書き

や・・・やばかった・・・・

危うく裏行きになるところでした・・(爆死)

これは俗に言う・・・微エロ?ってやつですかね・・・?(聞くな・・・)

っていうかなんかアポロ乙女化して・・・るよね・・・これは・・・(爆死)

しかし・・・なーんか、インドラがアポロにからむとエロっぽくなってしまう・・・・(−−;

セクハラ大王め、ってか、私のキャラの中で一番欲望に忠実なんだろうなぁと

思ってしまった今日この頃です・・・(終わってしまえ・・・)





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