籠の鳳
キミは僕の物・・・ その白い翼を毟って・・・ 飛んで逃げることのないように・・・ この部屋に閉じ込めて・・・ その歌声が外に漏れないように・・・ 僕だけの為に歌って・・・ キミは・・・僕だけの物だから・・・・・・・・ 一人の男性がある部屋の前に立っていた。普段なら絶対に近づく事も無い部屋の前に、腕を組んで立っていた。 しばらくして意を決した様にインターホンに手を伸ばす。そして、スピーカーから部屋の主の声が・・・ 『はい、どちら様ですか?』 「・・・・・・ブラフマーや・・・クロード、話があるねん・・・ちょっとええか?」 クロードの部屋に入ったブラフマーは・・・正直本気で驚いていた。彼の部屋の中には第9部隊のメンバーをはじめ、セツナやアスカ、マサムネまでおり・・・狭くないはずの部屋が窮屈に感じられるほどだ。 「あ、関西弁」 「喧しいわ!!」 誰が言ったかわからないが、顔を見ていきなり『関西弁』は無いだろう。と思いとりあえずツッコミ魂で叫び返す。 「・・・・クロード・・・ちょっと来いや」 こんな所では話も出来ない。そう思いブラフマーは彼を連れ出そうとするが・・・ 「ちょっと!!エージさんを何処に連れてくつもりですか!!」 等、中には物凄い罵声が後ろから聞こえ・・・本来なら叫び返す所だが、今は1分1秒を争う時。ブラフマーは完全にその罵声を無視しクロードを連れて部屋を出た。そしてしばらく歩いていた彼等がついた場所は・・・ 「・・・チェイサーの格納庫?」 「・・・・・・ついさっき・・・螺旋はんが瀕死の重傷の状態で担ぎこまれた・・・あの駄犬も一緒にや」 「!?」 「螺旋はんは完全に意識を手放す前にある事をメモリに録音してはった・・・これはそのコピー・・・」 ブラフマーは懐から小さなテープを取り出すと、それを再生した。 『・・・グッ・・・・はぁ・・・はっ・・・・・・ユー・・・マ・・・すまな・・・い・・・あの子・・・が・・・・連れ・・・去られ・・・・た・・・・・・奴は・・死んで・・・いなかった・・・・・・このままで・・は・・・・・・・・・・・・・・・ザーーーーーーー−−−−−−』 「テープはここで終わっとる・・・わいは・・彼女を助けるためにもッと詳しい情報を仕入れに行く・・・」 「・・・・・・・・どうして僕にそれを?」 「・・・お前の力が必要なんや」 「・・・僕の?・・・でも・・・」 クロードは眼帯のついた右目を押さえる・・・そんな彼の仕草を見て、ブラフマーは不敵な笑みを浮かべ・・・ 「それでや、今からその目を治しに行く・・・嫌やとは言わせへんで?」 そして、片目の見えないクロードを後ろに乗せるとブラフマーは物凄いスピードで格納庫から飛び出した。 ちょうどブラフマーがクロードを連れ、街の中を疾走していた頃・・・・囚われの身であるヴィシュヌが目を覚ました・・・ 見なれない部屋に、首と手足につけられた・・・恐らく拘束具であろう漆黒のリング・・・そして、部屋に設置してある姿見に映った自分の姿を見て驚いた。 「・・・なんで・・・翼が?・・・それに服も変わってる・・・」 彼女の背中には大きな白い翼が生えており、服装も、螺旋のオイルで赤く染まったアーマーではなく真っ白なワンピースのスカートになっている・・・翼は自らの意思で羽を動くと解り、誰かに付けられた物ではないと判明。翼の付け根に違和感を感じ姿見に映してみる。そこには手足にはめられているものと同じような漆黒の拘束具・・・ 「・・・羽をしまえないようにって事・・・・?・・・このままじゃ飛ぶことも出来ないし・・・」 とにかく・・・ここから逃げ出さなければ・・・・と思いドアノブに手を伸ばした。もちろんドアには鍵がかかっており、びくともしない。しばらく押したり引いたり体当たりしてみたが、まったく開く気配の無いドアを蹴飛ばすと壁にもたれかかり改めて部屋を見渡した。・・・部屋自体はそれなりに広く内装も綺麗で、まるで子供部屋の様に沢山のぬいぐるみが置かれ天井から様々な色の飾り用のカーテンが吊るされている。一見すれば自分が拉致監禁されたとは思えないような部屋だが・・・窓には鉄格子、ドアはさっき調べたとうりびくともしない。仕方が無いのでとりあえず武器になりそうなものは無いかと調べる事にした・・・ 「・・・ほんっとに何も無いなぁ・・・」 しばらくごそごそと部屋中を探しまわっていたが、見つかった武器になりそうなものといえば・・・ 「鏡の破片にカーテンをくくってた紐・・・これじゃ何も無いのと一緒だよ・・・・」 はぁ、とため息をついて横向きに寝転ぶ。床にはふかふかの絨毯が敷かれていて結構気持ち良いのだが、翼が邪魔で寝返りをうつ事が出来ない。しばらくそのままの姿でいた彼女だが、何気なく目線を動かした先あるカーテンの奥に、奇妙なものを見つけた。 「・・・・なんだろう・・・・」 近づいて見ると、何かの操作パネルのようだ。幾つかのボタンにモニターが一つ。タッチパネルだろうか?ヴィシュヌはしばらく考えたのち、操作パネルのコードを自身へと接続した・・・・もしかしたらこの場所が何処なのか解るかもしれない、この建物の見取り図を手に入れることができるかもしれない・・・そう思っての行動だが、それはかなり危険な行為でもあった。何故なら・・・このパネルにウィルスがいたら?変なバグがあったら?もちろんそんな物に接続すれば彼女自身ただではすまない。最悪の場合機能停止も考えられる・・・ 「・・・一か八かの賭けだけど・・・何もしないでじっとしてるなんて性にあわないもんね・・・」 彼女は深く深呼吸をするとパネルの電源をONにした・・・・ 「こッからは歩きや、ちゃんと付いてこな迷ってまうからな」 ブラフマーがクロードをライドチェイサーに乗せて連れてきた場所。それはある街のスラム街だ。 「・・・こんな所に・・・僕の目を治せる人が本当にいるんですか?」 前を歩くブラフマーにはぐれないように早足で歩きながら問い掛ける。すると彼はチラッとこちらを向いて・・・ 「まぁ、信じられへんやろうなぁ・・・こない汚い所に『技術者』がおるなんてな・・・」 「・・・・・・・・」 クロードは黙って話を聞いていた。 「今から行くんは闇医者と呼ばれる女のところ・・・一個だけ言うとくけど、その女の前で年齢についての事はぜっっっっっっつたいに!!言うたらあかんで!一言でも歳の話したら命は無いと思いやぁ・・・フフフ・・・・」 「・・・は・・はい・・・・」 ブラフマーの異様な怯え方で、その行為がどれほど危険な物かは容易に想像できた。そんな事を話ながら歩いていると、不意にブラフマーが立ち止まる。 「着いたで・・・ええか、さっき言うた事、ちゃんと守りや?」 「・・・・」 クロードが頷くのを確認して、彼はある家のインターホンを押した。 『はぁ〜い♪どちら様ですかァ?』 スピーカーから聞こえてきたのは幼い口調の声・・・ 「お久しぶりです、姐さん」 『その声はブラちゃん!?ちょっと待ってて、すぐ開けるから!!』 家の中からせわしない足音が聞こえ、ドアのロックが外れると、勢いよく一人の女性とも少女とも言いがたい人物がブラフマーに抱きついた。 「あ〜ん、もう!!今まで何処に行ってたのよぉ!!アプサラス、すっごい寂しかったんだからねぇ!!」 「すんまへん、わいの方でも色々ありましてん、そう言わんといてください」 「ブラちゃんのぉ・・・ばかばかばかばかばかばかばかばかばかばかばかばかばかばか!!」 「あ・・・あの・・・・」 アプサラスと名乗った女性の勢いに、ブラフマーもかなり圧されている様子で・・・見かねたクロードが声をかけるが・・・ 「あら?ブラちゃん、この子誰?」 「今のわいの同僚ですねん。で、今日来た・・・・」 「いやぁん♪か〜わ〜い〜い〜Vv」 だきょ!! 「!!???」 急に抱き締められ動転するクロード、だがそんな事はお構いなしにアプサラスはブラフマーにこう言った。 「ねぇブラちゃん!この子ちょうだい!!」 「!?あ、あの!!あの!!!」 「姐さん、それはあきまへん」 「えぇ〜!?どうしてよう!!」 「今日来た理由はそいつの目の治療ですわ。姐さん、患者減らしてもよろしいんか?」 『患者』という言葉に彼女が反応を示す。 「あら・・・ざ〜んねん。患者さんに手を出すわけにもいかないものねぇ・・・ちょっと見せてねん♪」 そう言って手際よくクロードの眼帯を外し状態を確かめると・・・ 「ん〜ブラちゃん、ちょっと」 アプサラスはブラフマーを呼び、なにやら話し始めた。 「・・・・治療費とかその他もろもろでぇ・・・この位かしらん♪」 「げぇ!?・・・もうちょいまかりまへんか?」 「あらぁ、これでも十分お安くしてるのよぉ」 「・・・せやかて・・・・・」 「今まで一回も連絡しないで私の事ず〜〜〜っと、ほったらかしにしてたの誰かしらぁ?」 「う・・・・・ん〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜・・・・はぁ・・・・・・解りました・・・そんだけ、払わさしてもらいます・・・」 「キャハ♪ブラちゃんだ〜い好きVv」 そう言って上機嫌になった彼女はブラフマーの頬にキスをした。 「あの・・・ブラフマーさん・・・・お金なら僕が自分で払いますよ・・・僕の治療のためのものなんだし・・・」 「あほ、子供のくせに金の事なんざ気にすんな!」 ぐわし、と頭を鷲掴みにされ、そのままぐりぐりと撫でられる。クロードは子供扱いされたことに多少腹を立てたが・・・ 『何か・・・変だ・・・』 ブラフマーの行動にかなりの違和感を感じていた・・・普段ならば話し掛けるられることもなく、廊下であったとしても互いに挨拶をするわけでもない・・・そんな関係のはずなのに・・・ クロードはブラフマーを見てみる。いつものようにおちゃらけた様子でアプサラスと話している彼・・・だが・・・何かが違うような・・・ 「あ、そうや。姐さん、お師匠様は帰ってますかいな?」 そんなクロードの視線に気付き、それから逃げるように治療の準備をしていたアプサラスにブラフマーが尋ねた。 「・・・帰ってないわよぅ・・・最近ドラちゃんったらアッくんのとこに行ってばっかりなんだもん・・・」 『ドラちゃん』とは自分の師匠でもあるインドラの事。『アッくん』とはギリシア支部総指揮官のアポロのことだ。とブラフマーがクロードに教える。 「姐さん・・・・・・」 「せっかくの金ズルだったのにぃーーー!!!!!」 初めは寂しいんだな・・・と思っていた二人だったが、次の言葉で思いきりコケそうになる。 「・・・・・・えっと・・・じゃあ、通信機貸してもらえますかいな?ちょっとお師匠様に用がありますねん」 「ん〜・・・通信機を貸すのはいいんだけどぉドラちゃん絶対居留守使うわよ?」 「え・・・・・でもアポロはんの所におりますんやろ?」 「ドラちゃんがアッくんに頼んでるのよ・・・私からの通信があったらいないって言ってくれって・・・ほんっと失礼しちゃう!!」 「・・・・まぁ・・・姐さんからの通信言うたら大体が金絡みやろうしな・・・・・」 と呟いたブラフマーを氷の視線が射抜く・・・ 「・・・・と・・とりあえず駄目元でやってみますわぁ・・・・」 引きつりながら通信の準備を始める。コール音が数回なった後、モニターにアポロが映し出された。 『こちらギリシア支部・・・ああ、ブラフマー君か。久しぶりだな、元気にしていたか?』 「お久しぶりです、アポロさん・・・・・少し・・・やつれました?」 心配そうに言うブラフマーに対し、モニターの中のアポロは苦笑して、 『・・・色々と有ってな・・・で、今日はどうしたのだ?まさか世間話をするために通信を入れた訳では有るまい?』 その話題にはあまり触れて欲しくないらしい、すぐに話を切り替えようとアポロの方から用件を聞いてきた。 「あ・・・・ええ、そちらにお師匠様がお邪魔していると聞いたのですが・・・代わっていただけますか?」 その言葉にほんの少しだけアポロの表情が変わる。 『ふむ・・・・・すまないブラフマー君、あいつは今・・・・』 「ア〜ッくん♪ドラちゃん出さないとぉ『あの時の事』世界中にばらしちゃうぞぉ〜Vv」 クロードを治療室に連れて行き準備を始めていたアプサラスが急に顔を出してそう言った。それを聞いた途端、アポロの・・・表情は変わらなかったが、顔色が一気に悪くなる。 『・・・・・・少しだけ・・・待っていてくれ・・・・・・』 彼はそういい残し、モニターから離れる・・・・・ 「・・・姐さん・・・『あの時の事』ってなんやのん?」 「んふふ〜♪」 アポロの顔色の変化が余りにも急激だったので、流石に気になったブラフマーはに聞いてみるが・・・彼女は微笑むだけで何も言ってはくず、また治療室へと入って行ってしまった。 しばらくして、モニターに接続されたスピーカーから・・・ 『貴様がよくても私が困るのだ!!』 『ドガッ!!』 アポロの怒鳴り声と鈍い音・・・そして・・・ 『あたたた・・・なにも蹴らんでもええやないかぁ』 モニターにインドラが現れた。彼は・・・おそらく蹴られた部分であろう・・・腰の辺りをさすりながら少し寂しそうにしている。 「・・・お師匠様・・・」 師匠の情けない姿に少し頭が痛くなる。 『オウ、久しいな♪元気にしとったか?』 「はい、お師匠様もお元気そうで・・・」 『お前はいっつも真面目な返事しかしやへんなぁ・・・まぁええんやけど・・・』 「はぁ・・・」 『けんどな、わいとアポロの愛の語らいを邪魔するのは・・・あだぁ!!』 インドラが言い終わる前に彼の頭に分厚い本が直撃する。 『また貴様はそのような誤解を招くことを!!』 その様子を見て、ブラフマーは溜め息を一つつくと一言。 「お師匠様・・・あまりアポロさんをからかって遊ぶのはどうかと・・・・」 『あだだだだ・・・・アポロォ・・・今、角が当たったでぇ・・・・』 『知らん!!』 『はう・・・冷たいわぁ・・・』 「・・・聞いてないっすねぇ・・・お師匠様!!」 このままでは本題に入ることも出来ない、と彼は大きな声で師匠を呼び・・・ 『何やいな・・・そない大声ださんでも聞こえとるって・・・』 「今日連絡を入れたのは・・・お師匠様に頼みたいことがあったからです・・・」 真剣なまなざしで言う彼を見て、インドラは不適に笑い・・・・・・ 『弟子や言うても貰うもんはきっちり貰うで?』 「わかっています・・・お願いしたいことは2つ・・・一つ目は・・・情報提供。そして・・・・・もう一つは・・・・・・」 カタッカタカタカタ・・・ピーーーー 「・・・くうッ・・・・は・・・ハァハァッハァ・・・・・」 操作パネルから送り込まれる大量な数字の羅列、それの処理を何とかこなしていたヴィシュヌだが・・・手にいれることの出来た情報はこの建物の簡単な間取図のみ・・・ 彼女は自分の体に繋げていたコードを抜くと、溜め息をついて地べたに座り込んだ。 「はぁ・・・・結局・・・ここから出ないことにはどうにもなんないかぁ・・・」 「ここから出るのは不可能だぜ・・・」 不意に後ろから声がして、彼女は瞬時に身構えた。 「・・・君は・・・・」 そこに立っていたのはあの男・・・父を傷つけ、自分をここに閉じ込めた・・・ 「お前はここから出ることは出来ない・・・一生な・・・」 男はにやりと笑い、一歩・・・また一歩とゆっくりヴィシュヌに近づく・・・彼女はあとずさった・・・彼女の体が理由のわからない恐怖に支配されて・・・ 「・・・もう逃げ場はないぜ・・・」 男の言葉が示すと売り、彼女は壁際に追い込まれ、身動きの取れない状態になってしまった・・・ 「・・・君は・・・一体・・・どうして、こんな事・・・」 男は切れ切れに言う彼女を、愛しそうに見つめ・・・抱き締めると、彼女に口付けをしようとした。 「!?」 ヴィシュヌは両手で男の顔を押さえ必死で抵抗する。だが、男と女の力の差は歴然で彼女の両手は男の片手で軽く捕らえられてしまう。 「このぉ・・・」 女のままで敵わぬのなら・・・と彼女は自らの体を変化させようとしたが・・・ バチィ!! 「あうっ!!」 両手足に激痛が走る、男は掴んでいる彼女の手首に優しくキスをすると。 「・・・このリングがある限りお前はこの姿から変わる事は出来ない・・・このまま・・・永遠に俺とここで暮らすんだ」 「・・・き・・・君は一体誰なの!?何でそんなこと!!」 痛みを堪え、睨みながら叫ぶ。そんな彼女の様子に、男は少し悲しそうにこう呟いた。 「まだ・・・わからないか?じゃあ・・・この言葉はどうだ?・・・『君は僕のもの・・・誰にも渡さない・・・僕だけのもの・・・』」 その言葉に彼女はハッとして男の顔を見た。初めて直視した男の瞳・・・色は鮮やかなオレンジ色をしていたが・・・まるで闇を宿しているようで・・・ 「・・・・まさか・・・・君は・・・・あの時の・・・・・・」 カタカタと震えながら言う彼女を見て、男はさも満足そうに微笑んだ。その微笑が更に彼女の恐怖をかきたてる・・・ 『やっぱり・・・・あの時のクラッカー(侵入者)だ!!』 そう気付いてしまった途端、彼女の心は完全に恐怖に支配されてしまった。 「ようやく思い出したか・・・」 「や・・・・やだ・・・・・父さ・・・」 恐怖のあまりこの場にいない父に助けを求める・・・だが・・・ 「無駄だ・・・奴はもういない・・・俺が殺した・・・・お前が眠っている間にな」 「・・・う・・・そ・・・」 「信じる信じないはお前の自由だ・・・だが、お前も見ただろ?俺に切り刻まれたあいつの姿をな・・・」 男は笑い、彼女から離れ部屋の出口へと向かう。 「ま、どうあがいてもここからは逃げられねぇ、助けを待つのも無駄な事だ・・・お前は俺と共にここで生きるしか選択肢は残されてねぇんだよ」 そう言って部屋を出て行った。後に残されたヴィシュヌはその場に座り込み・・・・ 「・・・・・怖いよ・・・・母さん・・・父さん・・・」 ガタガタと震える体を抑えるようにひざを抱える・・・ 「・・・怖いよぉ・・・・助けて・・・クロード君・・・助けて・・・・」 治療を終え、外に出た2人はある場所へと急いでいた。 「・・・ヴィシュヌさん?・・・」 急に立ち止まったクロードをブラフマーが不思議そうに見る。 「ん?どないしたんや?」 「あ・・・いえ・・・」 そしてまた二人は歩き出した。 「あの・・・ブラフマーさん・・・」 「なんや?」 「今・・・僕達はどこに向かっているんですか?・・・それに・・・・その、『それ』はいったい・・・?」 クロードが指差す『それ』とは、ブラフマーが背負っている物体・・・恐らくクロードの身長と同じ位の長さであろうそれを特殊な布で包み、背負っているのだ。 「ん?これかいな?・・・これは・・・まぁ、秘密兵器っちゅーやつや♪で、今向かっとる場所は・・・ここや」 ブラフマーはそう言って、ある格納庫のシャッターを開けた。 「・・・ここは・・・・」 そこには沢山のライドチェイサーが保管してあり、ブラフマーは迷わずに一つのチェイサーのカバーを外しエンジンを吹かし始める。 「久しぶりやなぁ・・こいつに乗るんも・・・クロード!ここにあるんやったらどれでも好きなん使いや」 言われて、まずは近くにあるチェイサーのカバーを捲る。どうやらきちんと整備してあるらしく、慣らしをせずともすぐに走り出せるようだ。 「また男同士でニケツするんも嫌やしなぁ」 「・・・・・・?あの・・・『ニケツ』ってどう言う意味ですか?・・・」 笑いながら言うブラフマーに、クロードは自分に合いそうなチェイサーを探す手を止め、彼に聞いた。 「お?ああ、2人乗りっちゅー事やがな・・・わいかてくっつかれるんならお前みたいな細っこい男よりもこう・・・グラマーなねーちゃんの方が・・・」 「じゃあこのチェイサーお借りしますね」 ブラフマーのボケを完全に無視をして話を進めるクロード。 「・・・お前さん・・・ある意味芸人殺しを心得とんな・・・突っ込んでくれんとさみしーやんかぁ!!」 「・・・で、これからどこへ向かうんですか?」 それでも冷静にこれからの事を聞いてくるクロードに、ブラフマーはようやく真面目な顔になり・・・ 「・・・今から向かう場所はこの街から北西に約500Kmはなれた場所にある・・・マッドサイエンティストの住んでいた研究所や・・・」 「・・・住んでいた?」 「今は誰もおらん筈なんやけど・・・間違いなく、彼女・・・ヴィシュヌはんはそこにおる・・・」 不敵に笑い、そう言いきるブラフマーにクロードは・・・ 「それは真実なんですね?」 「おうよ!わいと師匠の情報収集力、なめてもらったらあかんで」 「じゃあ・・・行きましょう・・・」 クロードの視線が険しくなる。彼は静かにチェイサーにまたがると格納庫から飛び出した。 「・・・彼女は・・・君でないとダメなんです・・・それを・・・ちゃんと理解しておいてくださいね、クロード・・・」 ブラフマーの小さな呟き、誰にも聞こえないように自らの心の内を呟いた彼は・・・ 「さぁて!お姫様奪回作戦開始や!!いっちょハデに暴れるでぇ!!」 そして彼もまた、格納庫を飛び出した。 To Be Continued |
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