かくれんぼ
「痛ッ・・・ハァ、ツイてないなァ・・・」 今ぼくは、谷を抜けて、遺跡がある場所よりさらに奥に進んだ森の中にいた。 「まさかイレギュラーがいるなんて・・・」 途中までは何事もなく進んでいたけど・・・遺跡に近づいたとたん、たくさんのイレギュラーに囲まれて・・・何とか半分くらいは倒して森の中に逃げ込んだんだけど・・・ ガッ、ガガガッ・・・・・・・ザァー――――――・・・・・ 「通信機も壊れちゃったし・・・どうし・・・」 ザッ 「!」 森の奥のほうに何かの気配を感じて、ぼく専用武器の『薙刀』をかまえた・・・どうしよう・・・さっきの戦いでそれなりにダメージ受けちゃったから、またあんなに出てきたら・・・ 「あの・・・それ、危ないから片付けてくれませんか?」 「!? なっ!!」 茂みから出てきたのは、イレギュラーでも、獣でもなかった・・・けど・・・ 「ゼッ!ゼロウィルス!?って言うかなんでしゃべれるの!!!!??????」
「む〜・・・」 今ぼくは生まれて初めて、難しいこと考えてると思う・・・生まれてからまだ一年も経ってないけど・・・ えーっと・・・とりあえず、彼の言う話しをまとめると。(彼って言うのはもちろんゼロウィルスのことね)彼らは自分達がどうやって生まれるのかは知らなくて、気がついたらその場所にいるらしい。で、彼の場合ほかのウィルス達と同じように生まれたけど・・・この場所には自分しかいなくて、しかも原因はわかんないけど、なぜか言葉も話せるらしい・・・これじゃ何もわかってないのと一緒なんじゃ・・・ 「あの・・・」 ぼくが考え込んでいると彼が話しかけてきた。 「なに? どうかしたの?」 ぼくの行動はあまり良くないかもしれない、得体の知れないウィルスと話しなんかしてるんだから・・・でも、ウィルスガードチップつけてるし・・・彼自身、1mくらい離れた所から近づこうとしないんだもん。 「あの・・・もし良かったら・・・その、これからも、俺と話をしてくれませんか?」 ? はなし? 「どうして?」 何で話しなんだろう? なんか、お兄ちゃん達に聞いてたウィルスとはぜんぜんイメージが・・・ 「俺、生まれてからずっと一人でこの場所にいたから・・・話し相手がほしかったんです」 ん〜・・・どうしよう・・・ 「あ! 感染とかそういう事が気になるなら、俺もっと離れますから!」 ぼくに危害を加えるつもりはないってこと? でも、あのイレギュラー達・・・ 「じゃあ、ひとつ聞いていい? 遺跡の周りにいたイレギュラー達・・・あれ、君が何かしたの?」 多分、彼の影響だと思うんだけど・・・ 「あ・・・あれは・・・解らないです・・・俺がやったのかどうかも・・・あ!! でも!あいつら遺跡から離れれば追って来ませんから!! ・・・やっぱり・・・駄目・・・ですか?」 そう言って下を向いちゃった・・・なんかぼくがいじめてるような気分になってきた・・・ぼくは立ちあがって、彼に近づいて行って、そーっと手を伸ばした。大丈夫、感染する気配はないみたい・・・彼は、相変わらず下を向いてじっとしていて・・・ぼくは思いきって彼に触ってみた。 フワッ ・・・とりあえず触ることは出来るみたいだね、・・・ウイルスって言っても普通に触れるんだ・・・ 「!? うわ!!駄目ですよ!! 俺に触ったら貴方が!!! ・・・って、あれ?」 ぼくが触ってることに気づいて、彼はものすごく慌ててた。そのときの姿が面白くて・・・。
プッ 「あはははっ♪ おもしろ〜い♪」 ゼロ兄ちゃんと同じ姿なのに、中身はぜんぜん違う! 面白い♪ 「え? あれ? どうして????」 どうやらウィルスの自分に触っても、ぼくに何も変化が無いことが不思議みたい。まあ、当たり前か。 「ふふ♪ 実はね、今ぼくウィルスガード装備してるんだ。だから、触っても平気だよ?」 彼が恐る恐る手を伸ばす・・・ 「本当に? 触っても・・・平気?」 ぼくは彼の手をとって、自分のほっぺたに当てた・・・ 「本当だよ・・・ほら、ね?」 彼は凄くうれしそうな顔をして・・・微笑んだ・・・ 「本当だ・・・あの、俺の・・・話し相手になってくれませんか?」 ぼくも笑った。 「いいよ・・・今日からぼく達、友達だね・・・」 他のウィルスはどうか知らないけど、この人はぼくを傷付けるような事はしない・・・なぜかそんな考えが浮かんだ。相手はウィルスでそんな保証は全然無いのに・・・姿がゼロ兄ちゃんと同じだから? わかんないや・・・ 「そうだ、君、名前は?」 そういえばまだ教えてもらってないってことに気がついた。 「ぼくはマリアっていうんだよ♪」 すると急に彼は寂しそうな顔をして、首を横に振り、こう言った。 「俺には・・・名前は無いんです・・・俺は・・・ウィルスだから・・・」 そっか・・・ん〜・・・でも、このままじゃ色々不便だと思うし・・・ 「じゃあ、ぼくがつけてあげる!!」 そうだよ、名前が無いんなら、つけてあげれば良いんだ♪ 「え? いいんですか? ・・・」 「もちろん、ただ、ぼくもまだ生まれてから1年も経ってないから・・・簡単な名前しか出てこないと思うけど、それでもいい?」 すると、彼はとっても嬉しそうに笑って、ぼくの手を握り・・・ 「はい! 有難うございます!!」
結局、それからずーっと考え続けて、ようやく浮かんだ名前が『ウィルド』だった。ウィルスだから『ウィルド』・・・ぼく、あんましネーミングセンス無いみたい・・・でも、彼は気に入ってくれたみたいだし、まあ、よしとしよう♪ぼくは『ウィーちゃん』って呼ぶことにした。あと、ウィーちゃんに敬語は使わないでって言った。友達なんだから、敬語で話さなくてもいいよって。 「ねえ、ウィーちゃん、君はずっとこのブロックにいる? 次に来たとき、他のブロックに移動してたりしない?」 今はウィルスガードのおかげで触ることが出来るけど、もともとウィーちゃんはウィルス。物質を通り抜ける事も出来るから・・・次に会うとき見つけられるか心配だった。 「うん、 俺はこの場所から動くことは出来ないから、ずっとこの森の中にいるよ。ただ、探すのにはちょっと苦労すると思う・・・だから俺の名前を呼んでね、そぐに出てくるからさ」 敬語じゃなくなったら、ぜんぜん印象が違う・・・でもぼくはこっちの方がいいと思う・・・それに・・・名前、呼んだら出て来てくれるのか・・・探さなくていい・・・そうだ!! 「ねえねえ、ただ呼ぶだけじゃつまんないいからさ、かくれんぼにしようよ♪」 この前、昔の遊びが載ってたデータをじいちゃんに見せてもらってから、ずっとやってみたかったんだ♪ 「カクレンボ? それって何?」 あ、そっか、ウィーちゃんは知らないよね・・・ 「あのね、かくれんぼって言うのは・・・」 ぼくはウィーちゃんに感単にかくれんぼを説明した。 「なるほど・・・じゃあ、マリアがこの森に入ったとき、俺は隠れたら良いんだね?」 「そ、で、ぼくが『もーいーかい?』って言うから・・・」 「俺が『もーいーよ!』って言う」 「そう♪ あ・・・でも、次いつ来れるかわかんない・・・」 どうしよう、これじゃあ約束できない・・・ 「大丈夫♪マリアがこの森に入れば、俺は何処にいても解るから。だからちゃんと『もーいーかい?』って言ってね」 ぼくはうれしくなってウィーちゃんに抱きついた。 「うわ! ・・・マリア?」 「ぼくね、まだちゃんと友達って呼べる人いなかったの・・・だから今、とってもうれしい・・・ウィーちゃん、約束だよ? ちゃんとぼくが『もーいーかい?』ッて言ったら。『もーいーよ!』って言ってね?」 「うん、約束・・・」 ウィーちゃんはぼくの頭をなでてくれた、なんだかほんとのゼロ兄ちゃんみたい・・・そうだ、この機会にあれもやっておこッと♪ 「ねえウィーちゃん、ちょっと手、出して」 ぼくは不思議がるウィーちゃんの手をにぎらせて、小指をかぎ状の形にさせた。そしてぼくも手を同じ形にして、小指どうしを引っ掛けてっと・・・ 「これはね、『ゆびきり』って言って約束するときにする事なんだって。いい? 今からぼくの言うこと、覚えてね?」 ぼくはウィーちゃんに『ゆびきり』を教えた・・・そして。 『ゆーびきーりげーんまん、うーそつーいたら、はーりせーんぼんのーます! ゆーびきった!』 「・・・針を千本も飲むの?」 ウィーちゃんが不安そうに聞いてきた・・・ぼくもよくわかんないけど・・・ 「たぶん・・・物の例えなんじゃないかなぁ? ほら、そう言っとけば、誰も約束破ろうとしないでしょ?」 ウィーちゃんも納得したみたい。『なるほど!』っだって♪ ・・・そう言えば・・・ぼくがここに来て、一体どれくらいの時間がたったのかな・・・どうしよう、今のぼくじゃ飛ぶことも出来ないし・・・どうやって帰ったら・・・ 「どうしたの? マリア・・・急に泣きそうな顔して・・・俺、何かした?」 え? 顔に出てた!? ・・・ウィーちゃんがオロオロしてる、心配してくれてるのかな? 「違うの・・・あのね・・・ぼく、来るときは飛んできたんだけど・・・いま、羽に傷が入ってて・・・飛べないんだ・・・どうやって帰ったら・・・」 「なんだ、そんなことか・・・」 ウィーちゃんはそう言うと・・・ ヒョイッ ぼくを軽く抱えあげて・・・ タンッ そのまま空を飛んで・・・このブロックの出口付近まで、連れて行ってくれた・・・ 「あ、ありがと・・・」 「気にしない♪もともと俺はウィルスだから、空くらい簡単に飛べるんだ♪」 ウィーちゃんはそう言って、にまっ♪ って笑った。 「ほら、あれ、マリアのこと探してるんじゃないのかな? 俺はここから先に行けないけど、もう一人でも行けるよね? 早く行って。俺なんかと一緒にいる所、見られたらいけないんでしょ?」 ウィーちゃんはぼくの背中を押してスーって消えていった。彼の指差した方向にはファルコンアーマーのエックス兄ちゃんがいて・・・ 「マリア!!」 ぼくが少し歩いて行くと、すぐに見つけてくれて・・・ 「マリア! 大丈夫かい? 心配したんだよ?」 兄ちゃんがぎゅって、抱きしめてくれた。でも、ぼく・・・ 「ごめんなさい・・・兄ちゃん、ぼく、ちゃんと調査できなかった・・・」 初めての一人での出動に、ぼくは失敗したんだ・・・ウィーちゃんに会えたのはうれしい事だけど・・・やっぱり、くやしい・・・ 「いいんだ、君が無事なだけで・・・さあ、はやく帰ってライフセイバーに見てもらお?」 そして、ぼくはそのまま兄ちゃんと一緒にベースに帰った・・・
・・・また、すぐに来るから、いっぱいお話ししよう・・・いっぱい遊ぼう・・・ね、ウィーちゃん・・・ |
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