かくれんぼ
〔G‐103〕 人の踏み入る事の無い深い谷に囲まれた場所。その上空を移動する影・・・ 「本当に・・・ここにマリアちゃんがいるんですか?」 森の入り口に降り立った2人のレプリロイドのうちの一人『蒼き旋律』こと第7空挺部隊、隊員クロス。 「間違い無いよ、君も感じるだろ? ・・・あの子を・・・」 クロスにつかまって、深い谷を越えたもう一人のレプリロイド・・・『英雄』『心優しき戦士』第17精鋭部隊、隊長エックス。彼は森の奥を見据えて言った・・・ 「はぁ・・・」 クロスには『感じる』という感覚が良く解らないらしい、曖昧な返事を返し森の奥の方に目をやる。 「結構・・・深いですね、この森・・・」 クロスの言葉どおり、森の奥の方はあまり日の光も入っていないらしく薄暗かった・・・しかしエックスは歩き出す・・・ 「嫌な予感がする、早く・・・探そう・・・」 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
正直、そのとき俺はまだ、マリアちゃんがこんな森の中にいるなんてほとんど信じていなかった・・・ 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
「ちょっとまってください、なにか・・・声? かな・・・向こうの方から聞こえるんですが・・・」 そう言ってクロスは今まで歩いていた方向より少し左にそれた方を指差した。 「声? ・・・何を言っているかわかる?」 クロスは声のする方に向き直り、耳を済ました。彼の能力は音を操ること、感覚を研ぎ澄ませばたとえ何百キロ先の音でも聞き取ることが出来る。 「誰かが、マリアちゃんの名前を叫んで・・・る? 誰なんだ?」 それを聞いたとたんエックスの顔から血の気がひいた。誰かはわからないが、マリアの名を叫んでいる、と言うことは・・・彼女の身に何かがあった確率が高い。 「急ごう!!」 エックスは走り出していた。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 不思議・・・体が軽い・・・気持ちいい・・・人間が生まれてくる前は、『ヨウスイ』って言うゆりかご中にいるって聞いたけど・・・それも・・・こんな感じなのかな?・・・あったかい・・・
ズキッ! 背中が痛いよぉ、どうして? ズキズキズキ!!
あまりの痛さにぼくは目を開けた・・・ここは・・・? 「おや、目が覚めましたか。」 そう言って隣に来た人は、ライフセイバーさんだった。 「あ・・・」 どうやら医療室にいるみたい・・・ぼくはベッドにうつぶせで寝かせられていて、起き上がろうとして腕に力を入れた・・・瞬間! 「ッ!!」 背中がものすごく痛くなって起きあがれなかった・・・ 「あっ、まだ動いては駄目です。貴女はウィングパーツを完璧に破壊され、ついさっきカプセルから出たとこなんですから・・・無理に動いてもただ痛いだけですよ・・・」 そっか・・・ぼく・・・あの変な奴らに翼を取られちゃったんだ・・・悔しい・・・あんな奴らに負けるなんて・・・ 「今はゆっくり休みなさい、痛みもじきに消えるでしょう」 言われるまま、ぼくは目を閉じた・・・
「マリアちゃん!」 ウィングパーツの修理も終わって医務室を出たとき、ちょうどお見舞に来てくれたみたい。クロスさんに呼び止められた。2人で廊下を歩き出す・・・ 「もう動いても大丈夫なのかい?」 彼は心配そうにぼくを見つめ、持っていた花束を渡してくれた。 「これ、パトロール中に見つけた花屋で買ったんだ。君にぴったりだと思ったから・・・あ、もしかしてこの花嫌いだった?」 彼が渡してくれたのは、『ひまわり』の花束。 「いえ、私、この花大好きなんです。ありがとうございます」 なるべく不自然じゃないように、ぼくは笑顔でそう言った。 「マリアちゃん、無理してない?」 「え?」 ぼく、別に無理なんか・・・ 「なんかさ、笑い方がいつもと違うから・・・あ! そうだ!! リハビリも兼ねてどっか行こうよ! 気分転換にもなるし、ね♪」 その時ちょうど部屋についた。ひまわりを花瓶に入れようと思って、クロスさんに言うと。『じゃあ、ここで待ってるからさ』って、部屋の前で待っててくれるみたい。 あ、そうだ、起きたときから聞きたい事があったんだ・・・ 「あの・・・クロスさんが助けてくださったんですか?」
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「マリア! 目をあけてよぉ、お願いだから・・・マリアァ!!」 森の中を駆け抜けて来たエックスたちが見たもの ・・・それは・・・ 翼をもがれその白いボディを赤黒い血で染めた ・・・愛する者の姿・・・ そして彼女を腕に抱き、その名を呼びつづけているゼロウィルス
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「マリアちゃん!!」 聞き覚えのない声がして、俺はその方向を見た。そこにいたのは2体の青いレプリロイド・・・あれ? 羽のついてない方のレプリロイド、マリアに似てる・・・もしかして・・・このヒトが『エックス兄ちゃん』? 「てめぇ! マリアちゃんに何してやがる!!」 羽のついた方が殴りかかってきた・・・俺は、マリアをそっとうつぶせに寝かせて移動した。 どうもこの2体のレプリロイドはマリアの知り合いみたい・・・下手に手を出して壊したりしたらマリア、絶対に泣いちゃうよね。 「てめぇがやったのか!! だとしたら、ぜってー許さねーぞ!!」 羽の方(ややこしいからこう呼ぶ)がまた俺に殴りかかろうとしたけど、エックスさん(多分そうだと思うから)に止められた。 「落ち着くんだ! クロス!! 彼は何もしていない! それよりも早く転送装置のセッティングをして、ライフセイバーを呼ぶんだ!!」 それを聞くと、羽の方はわたわたと機械を設置してる。エックスさんは通信機で誰かと話しながらマリアに応急手当をはじめた・・・もう・・・大丈夫だよね・・・さよなら、マリア・・・大好きだよ・・・・・ 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 マリアの手当てが終わって、俺は『彼』がいないことに気がついた。 「隊長! 転送装置の設置、終わりました!!」 よし、これでライフセイバーはすぐに来るだろう・・・ 「クロス、ちょっとマリアを頼むね」 「え!? ちょ、エックス隊長!!?」 俺はクロスにマリアを託すと『彼』を探した・・・マリアのことも心配だけど・・・『彼』のあの顔、今にも泣き出しそうな・・・きっと『泣く』機能が付いていれば『彼』は『涙』を流していただろう・・・ そして、『彼』を見つけた。たくさんのメカニロイドに囲まれて、その身体を小さく丸めてうずくまっていた。 「こんな所にいたんだね」 俺の声を聞いて、『彼』はびくっと体を振るわせ、ゆっくりと俺を見た・・・ 「貴方は・・・エックスさん・・・ですよね? マリアから聞いてたから、すぐにわかりました。」 『彼』はそう言うと、まわりにいたメカニロイド達をどこかに行かせた。よく見ると、そのメカニロイド達は所々壊れているようだった・・・ 「君は・・・一体・・・何者なんだい? それにあのメカニロイド達・・・」 しばらく『彼』は黙っていたけど・・・ゆっくりと口を開いて、全てを話してくれた・・・ 「ここに、遺跡が・・・いえ、建物があるのは知ってますよね・・・あれ、何か知ってます?」 俺は首を横に振った。 「あれは・・・『ゴミ捨て場』なんですよ。外のやつらが処理できないゴミ、失敗作のメカニロイドやレプリロイドをエネルギーが切れるまで、ある場所に放置して・・・そして完全に機能停止したものをここに捨てるんです・・・ここが何故、立ち入り禁止か知っていますか? 簡単な事ですよ、上のやつらが恐れているんです。俺達の・・・ここに捨て続けてきた『ゴミ』の事がばれちゃいますからね・・・」 『彼』はさも可笑しそうに笑った・・・けど、目は・・・深い悲しみを示して・・・ 「俺達って事は君も・・・?」 「ええ、もともと俺は軍事用に開発されたレプリロイドでした・・・しかし、人間は俺を捨てました。理由がまた馬鹿げてるんですよ、なんだと思います? ・・・俺が・・・幼すぎるから・・・俺の精神プログラムが幼すぎるから処分するって! あいつ等言ったんだ!! 前の日まで俺の事が必要だとかいろんなこと言って、やりたくもない訓練とかいっぱいやらせてたくせに!!」 『彼』が急に声を荒げ出した・・・口調も幼くなってる・・・おそらくこれが『彼』本来の話し方なんだろう・・・『彼』は拳を強く握り怒りをあらわにしている。 「あいつ等、俺の事処分するって言って、捨てたんだ・・・一回目の場所は何処か解らなかったけど・・・凄く寂しくて、いくら叫んでも誰も返事してくれなくて・・・まわりにいるのは壊れたやつばっかりで・・・!!」 さらに話しを続ける。おそらく自分の話し方が変わった事にも気付いていないだろう・・・ 「君は・・・今もその人間達が憎い・・・?」 今俺が一番気になること、もし『彼』が人間を憎んでいるのなら・・・俺は・・・ 『彼』はその質問に驚いたようで、一瞬目を大きく開いた。そして首を傾げ・・・ 「解らない・・・」 一言いって腕を組んで考え出した・・・どうやら『彼』の精神プログラムは、アリアと同じ位の年齢設定のようだ・・・ 子供なんだ・・・この子は・・・ 「最初・・・捨てられた時は憎かった・・・と思う・・・でも、今は解らない。そんな事・・・俺を捨てた人間なんかどうだっていい・・・」 「どうして?」 「だって、マリアと友達になれたから・・・」 そう言って、『彼』は笑った・・・まるで何も知らない純真な子供のように。人間のした行為に怒り、その拳を震わせていた『彼』と同一の存在と思えないような笑顔・・・世の中の全てが善だと言いきってしまうような・・・ 「俺、マリアの泣くような事したくないんだ・・・マリア優しいから、全然知らない人間でも、そいつが怪我したり・・・死んじゃったりなんかしたら、絶対泣いちゃうから・・・」 ・・・ああ・・・この子は・・・マリアが好きなんだ・・・今までの価値観、全てがどうでもよくなってしまうほど・・・ 「・・・でも、俺・・・もう・・・マリ・・・あ・・・ニ・・・」 急に『彼』の声がかすれ出した、姿も!? 「な!! どうしたんだい!?」 「さっ・・・き・・・オレ・・・チ・・・カラ使・・・タ・・・から・・・モ・・・う・・・消エ・・・」 そうか、さっきの2体のレプリロイド・・・この子が・・・ 「君は、マリアにもう一度あいたい?」 この子の気持ちが知りたい・・・この子の本当の気持ちが・・・ 「・・・ア・・いた・・・い・・・ま・・・リア・・・ニ・・・消エタク・・・ナ・・・い・・・」 今にも泣きそうな顔で『彼』が言う・・・ 「わかった・・・あと、君の名前、教えてくれないかな?」 「・・・うぃ・・・ル・ど・・・マリア・・・ガ・・・付け・・・・て・・・・・・・・・・」 「・・・ウィルド・・・大丈夫、君は消えたりなんかしない・・・少し・・・眠るだけだよ・・・」 そう、少しのあいだ・・・眠るだけ・・・ 「寝・・・ルの・・・?」 「そう・・・だから、安心してお休み・・・次に目が覚めたら、また、マリアと遊べるから・・・」 そう言うと、ウィルドは安心したようだ・・・ 「ウ・・・ん・・オ・・・・やす・・・ミ・・・・・・・・・・・・」 その言葉を最後に、ウィルドは消えた・・・そして、彼の立っていた場所に小さなチップが落ちていた・・・ 「お休み・・・ウィルド・・・」 オレはそのチップを拾い上げ呟いた・・・・・・・・・
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うそだ!! そんなの絶対うそだ!!!
ぼくは走った、エックス兄ちゃんを探して・・・ うそだうそた!!!ウィーちゃんが消えたなんて・・・そんなのうそだ!! 「エックス兄ちゃん!!」 トレーニングルームで、エックス兄ちゃんを見つけて、勢いよく扉をあけた。 「マリア? もう大じょ・・・」 「ウィーちゃんが消えたってほんとなの!?」 ぼくは兄ちゃんの言葉をさえぎって大きな声で叫んでた・・・ 「・・・ウィーちゃんって?」 「クロスさんに聞いたもん! 兄ちゃんが、ウィーちゃんと話してたって!! で、ウィーちゃんが消えちゃったって!!」 お願い・・・そんな事ないって、消えてないって言ってよ・・・ 「マリア・・・」 急に兄ちゃんに抱きしめられた・・・ 「に、兄ちゃん・・・?」 兄ちゃんは何も言わない・・・ 「やだよ・・・兄ちゃん・・・何か言ってよ・・・これじゃあわかんないよぉ」 ・・・自分でも気付かないうちにぼくは泣いてたみたい・・・兄ちゃんが、優しくぼくをなだめるように頭をなでてくれた・・・ 「マリア・・・部屋に戻ろう・・・ね?・・・・・皆、すまないが各自でトレーニングを続けてくれ」 そして、ぼくと兄ちゃんはそのままトレーニングルームを後にした・・・・・・ |
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