かくれんぼ



『マリアはどうしてハンターなんかしてるの?』

『え? どうしてって言われても・・・』

『だって、戦うのって痛くない? それに、ハンターって [ドウゾクゴロシ] だって聞いたことあるよ?』

『・・・同族殺し・・・か』

『? マリア?』

『たしかにね、ハンターって、思ってたよりも怖いし、すっごい怪我とかもしちゃうみたいだし、死んじゃうことだってあるよ・・・それに・・・レプリロイドを殺すことも・・・』

『・・・・・・・・・』

『でもね、嫌な事ばっかりじゃないんだよ?』

『え?』

『ぼくがハンターだったから、こうやってウィーちゃんに会えたしね♪』

『あ・・・そっかぁ・・・』

『えへへ・・・』

『へへっ♪・・・? どうしたの?』

『ぼく達・・・ずっと一緒・・・だよね?』

『もちろんだよ! どうしたの? 泣かないで、マリア・・・』

『ぼくね・・・ぼく・・・ホントは怖いんだ・・・ハンターって、本当にいつ死んじゃうかわかんなくって・・・ぼく、ウィーちゃんと別れたくない! ・・・ずっといっしょにいたいよ!!』

『マリア・・・大丈夫だよ、君が危なくなったら、俺が守ってあげる・・・だから・・・ずっといっしょにいられる・・・ずっと・・・』

 

 あの事件から、今日でちょうど半月になる・・・マリアもどうやら落ち着きを取り戻したみたいだ・・・よかった・・・。

 そんなことを考えながら、俺はベース内のある研究室に向かっていた。

「ドアなら開いてるよ」

 研究室の扉をノックしようとしたとき、中から声がした。

「スゴイね、俺が来た事が解ったんだ」

 ドアをくぐり、声の主に俺は話しかけた。

「まあな、ちょうど一段楽した事だし休憩していたところだ・・・お前も一杯飲むか?」

 そう行って『彼女』は持っていたティーカップを軽く上げた。

「じゃあ、一杯もらおうかな?」

 『彼女』は近くにいたサポートのレプリロイド、ヴイシュヌにコーヒーを入れるように言うとカップを机の上に置き、煙草を取り出し火を付けた。

「お前がここに来たってことは、『あの子』の事か?」

 俺は持ってきてもらったコーヒーを一口飲んで、頷いた。

「彼の調子はどう? まだ、上手くいかないのかい?」

「そうだな・・・今のところは調子よくいっているが・・・またいつ『だだ』をこねるか解らんからな・・・まだしばらく様子を見る必要があるだろう」

 そう言って『彼女』は煙草をふかす。背中まで伸びて、一つに束ねられた黒髪が白衣に映える。『彼女』はいつもゴーグルをかけている、真っ黒なゴーグルで、その表情を知る事は出来ない・・・。

「ごめんね、無理言って・・・」

 俺は『彼女』に無理を言って、彼を・・・ウィルドをまかせた・・・。

「気にするな、元々レプリロイドを一体作るよう言われてたんだ。マリアの相棒としてのな。」

 俺はあの時拾ったチップが彼の精神プログラムの物だと解った、だから彼をもう一度目覚めさせるために、『彼女』にチップを渡した・・・。

 『彼女』はレプリロイド工学を学び、すでに何体かのレプリロイド製作も終えている。

 マリアのボディを作ったのも彼女だ。

ヴィー! ヴィー! ヴィー!!

 急に警報音が鳴り出す!

「どうした!?」

『彼女』は立ち上がりヴィシュヌに報告をさせる。

「大変です! また暴走が始まりました!! ・・・だめです、俺一人ではどうする事も出来ません!!」

「くっ、・・・すまないエックス・・・」

「ううん、元々俺が邪魔しに来ちゃったみたいなものだし・・・がんばってね」

 そう言うと、『彼女』はふっと微笑み・・・

「ああ、必ずマリアの笑顔を取り戻してやる・・・」

 そして、『彼女』は研究室の奥に消えた・・・。

「ごめんね・・ユーマ・・・」

 俺は研究室を後にした。

 

 どんなに遠くに離れても・・・

 

 どんなにかくれても・・・

 

 どんなに小さく静かでも・・・

 キミを見つけだすよ・・・ キミに会いに行くよ

 

 

「こんな所にいたんだ」

 ハンターベースで一番高いところにあるほとんど人の来ない場所そこにマリアはいた。

「あ、エックス兄ちゃん」

 マリアは歌っていた、遠くまで聞こえるような清んだ声で・・・

「何時からここにいたんだい? 風邪ひくよ?」

 俺はマリアの隣に座り、その手を持った。その小さな手は冷たくなっていて、かなりの時間ここにいた事がわかる。

「ん〜、なんかちょっと一人になりたいな〜っておもっちゃって・・・兄ちゃんの手、あったかいね」

 マリアはあの日から笑わなくなった・・・まったくと言う訳じゃないけど、心のそこから笑う事がなくなった・・・。

 それほどウィルドはマリアの中で大きな存在になっていたんだ。

「マリア・・・」

 

 

 一番近くにいるキミに・・・

 一番かくしてた・・・

 一番早く見つけたくて・・・

 広いこの空の下、ちっちゃいムネの中で

 

 

「ずっと昔の歌なんだって、このあいだ見つけたの・・・いい歌でしょ? ・・・ぼくの気持ちによく似てたから・・・」

 しばらくの間、マリアは歌っていた、自分の気持ちを俺に教えてくれているようだった・・・

「こんな所にいたのか・・・探したぞ、二人とも」

 扉の方から声がして、その方向を向くと、そこには。

「ユーマ・・・あれ? そのヒトは?」

 ユーマの後ろには俺より少し大きいくらいのレプリロイドが立っていた。

「ほら、自分で言うのだろう?」

 彼女にせかされて、後ろのレプリロイドが俺達の前に来た。

「・・・・・・・」

 しかし、何も言わずじっとマリアを見つめている。マリアも、つられたように彼を見つめている・・・すると。

「・・・ウィーちゃん・・・なの?」

 そうマリアは言った、彼は少し驚いてそして微笑み、はじめて口を開いた。

「そうだよ、解ってくれたんだね、マリア・・・」

 彼はマリアを抱きしめ。

「ごめんね、ずっと一緒だって言ったのに・・・長い間一人にして」

 マリアはウィルドの胸に顔をうずめ、その名前を呼びながら泣きじゃくっている・・・。

 俺は二人から離れ、ユーマに話しを聞いた。

「完成したんだね・・・よかった」

「ああ、あの暴走は早く外に出たいと言うやつだったらしい・・・まったく、何てやつだ」

 口ではそう言っているが、ユーマは微笑んでいた。

「ありがとう、ユーマ・・・本当に・・・」

 俺は自分の今の気持ちを素直に言った・・・本当に嬉しかった。

「言っただろう? これは私の仕事だ・・・しかし、何故お前がそこまで喜ぶ?」

「似てたから・・・あの時に・・・ゼロが俺をかばって死んだ時の・・・俺に・・・」

 一番大切なヒトがいなくなってしまうのは・・・辛くとても苦しい事だ・・・。

「だから、今は自分の事みたいに嬉しいんだ・・・変かもしれないけど・・・」

 馬鹿にされるかと思ったけど、ユーマは俺の頭をぽんぽんっと叩いて微笑んだ。

「そうか・・・しかし、これからあいつは大変だろうな」

 二人の方を見て、ユーマが呟く。

「どうして?」

「よく考えて見みろ。ウィルドはいわばマリアの心を独り占めしたようなものだ」

「あ!・・・たしかに、大変だね」

 俺も二人の方を見た。

 マリアは泣き止み、いつもの、心の底からの笑顔を見せていた。

 

 

 一番近くにいるキミに・・・

 

 一番かくしてた・・・

 一番早く見つけたくて・・・ 遠い・おさない・想い

 

 どんなに遠くに離れても・・・

 どんなにかくれても・・・

 どんなに小さく静かでも・・・

 

 ずっと終わらないから ずっと忘れないから

 

 初恋の「かくれんぼ」

 

 

 

 

   『もーいーかい?』

 

 

  『もーいーよ!!』



END







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