化粧師 −後編−
朝とはまた違う撮影が終了して、僕は家に帰る途中。いつものように公園の横を通り過ぎようとした時・・・・・ 「?・・・!エアルちゃん!?」 何気なく公園の中を眺めた時、ベンチに座って俯いている女性を見つけた・・・紛れも無く・・・今日僕がメイクを施した彼女、エアルちゃんだった・・・ 「あ・・・店長さん・・・」 僕の声に気が付いて顔を上げた彼女の目からは大粒の涙が零れ落ち、メイクもぼろぼろになっていた・・・・ 「あ・・あの・・ごめんなさい・・・せっかく綺麗にしてもらったのに・・・」 「そんな事はどうでも良いよ!メイクなんかまた直せば良いんだから・・・一体何があったんだい?」 優しく彼女の頬を両手で包む・・けど、彼女はまた僕にも恐怖を覚えてしまっているらしく・・・体を強張らせた。 「ああ・・・可哀想に・・目が腫れてるじゃないか・・・」 なんとか彼女の恐怖感を取り除いて、メイクを落とす。 「大丈夫だよ・・・どんな事があっても僕は女性の・・・キミの味方だから・・・大丈夫だよ・・・」 その言葉を聞いて、彼女はまた泣き出してしまった・・・僕は優しく彼女を抱き締めて、その涙が止まるのを待った・・・ 今は簡単なセットしか持っていなかったからナチュラルメイクをもう1度彼女に施す・・・元が良いからほんとは化粧なんて必要無いくらいなんだけどね。 「ハイできた♪やっぱりキミは可愛いヨ♪」 「・・・・・・・」 可愛い、と言う言葉を聞いた途端、また彼女は俯いて・・・首を横に振った。 「・・・可愛くなんて・・・無いです・・・だって・・・だって・・・」 やっぱり『あの人』とやらが関係してるのかなぁ・・・ 「ねぇ、何があったかはわからないけど・・・」 「なんだぁ?まだこんなとこにいたのかよ」 不意に男の声がした。その声で彼女の体が強張る・・・もしかして・・・ 「もう新しい男引っかけてんのか・・・やるねぇ」 ギャハハハ、と複数の男の下卑た笑い声・・・彼女の体が怒と恐怖と悲しみで小さく震えていた・・・・ 「・・・行こうか・・・ここじゃちゃんと話も出来ないしね・・・」 「オイ、エアルぅそのお兄さんのこと、俺達には紹介してくれねぇのかぁ?」 何て言うか・・・典型的な不良って感じだよね・・ほんと・・・僕はそいつ等を見てみた。レプリロイドが数体に・・人間が3人・・かな? 「あの人間3人の中の誰かが・・・君の言ってた『あの人』かい?」 彼女は俯いたまま首を横に振る。 「彼・・・あの人達のチ−ムにいたんです・・・」 あららら・・・まさか『族』さんだったなんてねぇ(^^; 「今日、チームを抜けるから・・・私の気持ちを聞かせて欲しいって・・・でも・・・いくら待っても彼は現れなくて・・・あの人達が・・」 「教えてあげたんだよぉ♪あいつはお遊びでその子に近づいてたんだってさ」 彼女の瞳にまた涙が・・・ 「・・・そのこと、彼から直接聞いた訳じゃないんでしょ?」 「・・はい・・でも・・・・」 「だったらあんな奴らの言う事信じちゃダメだよ。彼から直接聞くまでね」 「・・・でも・・・彼、時間になっても現れてくれなかったし・・・」 あぁ〜・・・この状態じゃ僕が何言ってもダメっぽいなぁ(ーー; 「ほら、もしかしたら急な用事が出来て来れなかっただけかもしれないよ?」 「なんだったら俺達と遊ばない?あいつといるより楽しい思いさせてやるぜぇ」 うわっ・・・マズイなぁ・・・あいつ等どんどん近づいて来るよ・・・僕、戦闘タイプじゃないからケンカって苦手なんだよね・・・ 「逃げて・・・とりあえず・・・ここは何とかするから・・・」 「で・・・でも・・・」 「・・・ハンター見つけたら呼んでね?」 苦笑いしながら彼女にこう言ったけど・・・自分が戦闘タイプじゃないの悔やむときって大体がこんな感じ・・・情けない(ーー; 彼女は頷いて走り出した・・・んだけど・・・ 「きゃ!」 あららぁ・・・いきなり人間の3人組に捕まっちゃったよう・・・ 「どぉこ行くんだよ、一緒に遊ぼうぜぇ」 僕は彼女を助けるために走り出そうとしたんだけど・・ 「おめぇの相手は俺達だ!!」 うっそ、いつの間にか僕は沢山のレプリロイドに囲まれてて・・・ 「おらぁ!」 バキィ!! 「店長さん!!」 いきなり顔面を殴られた・・・イテテ・・・酷いなぁ、顔はモデルの命なのに・・・ 「ああ・・・お前どっかで見たと思ったら・・・最近雑誌によくモデルで載ってる奴じゃねか?」 「へぇ、じゃあ金持ちだよなぁ」 またニヤニヤと嫌な笑みを浮かべる・・・何?カツアゲでもしようっていうのかな? 「有り金全部出せや、そしたら殴らないでおいてやる・・・」 うわぉ、大正解・・・でも嬉しくなーい・・・(ーー; 「生憎だけど・・・僕今お金持ってないんだよね」 「フン、まだ殴られてぇみたいだな・・・お前Mの気でもあるんじゃねぇの?」 ドグ!! 「グハッ!!」 お腹を思いっきり殴られて中の物が出そうになる・・・ 「止めて!放してぇ!!」 彼女の悲鳴が聞こえる・・・マズイなぁ、このままじゃ彼女・・・・・・って言うか僕もこのままタコ殴りにされるの?それはヤだなぁ・・・もうモデルの仕事出来なくなっちゃうかも・・・ 「イヤァァァ!!!」 「お前等そこで何をしている!!」 不意に聞こえた聞き覚えのある声・・・殴られてぼんやりとした視界に入ってきたのは・・・ 「・・・・・・クロス?」 「なんだてめぇ等・・・」 僕の胸倉を掴んでたレプリロイドが言う。 「なんか用かぁ?おちびちゃんよ・・・・」 ゴシャ・・・・ 男が言いおわるよりも早く、クロスの膝がレプリロイドの顔面に入った・・・ 「誰がチビだおらぁ!!」 ああ・・・・怒ってる怒ってる・・・相変わらず『ちび』って言う言葉に反応してるなぁ。 「ちょっとサティロス、アナタ大丈夫なの?」 「ん・・・有り難う姉さん、助かったよぉ・・・」 僕はその場にぺたりと座りこんだ・・・エアルちゃんも心配そうに僕を見てる。どうやらさっきのクロスの一撃で驚いた人間達から姉さんが助け出してくれたらしい。 「ごめんねぇ、僕ケンカ弱くって・・・怖い思いさせちゃったねぇ・・・」 僕よりもエアルちゃんの方がずっと怖い思いをしちゃってるんだ・・・やっぱり僕って情けないや・・・でも彼女は首を横に振った・・・僕に心配かけまいとして・・・やっぱり女性って凄いね・・・ 「あの・・・ところで・・・」 「ん?どうしたんだい?」 「あの方・・・止めなくて良いんですか?」 彼女が指差した方向には大暴れしてるクロスが・・・時折聞こえる『チビ』と言う単語にさらに狂暴化してるし・・・(^^; 「・・・大丈夫でしょう、一応イレギュラーハンターだし・・・ね?」 しばらくして、いつの間に連絡を入れたのか・・・人間の警察とイレギュラーハンター数人に奴らは連行されていった。その時クロスはイレギュラーハンターの人達と少し話をしてたけど・・・こうやって見ると・・・結構逞しくなったんだね・・・ 「えっと・・君がエアルさん?」 最後に敬礼をして、こっちに走ってきたクロスはエアルちゃんに名前を聞いた。 「あ、ハイ・・・そうです・・・」 あ・・・ちょっと怖がってる・・・まぁ仕方ないか・・・さっきあんな事(クロスの暴走の事じゃないよ!)があったんだし・・・ 「君、『リュンクス』って人の知りあ・・・」 「リュンクスさんがどうかしたんですか!?」 急に大きな声を上げた彼女に僕達は驚いた。 「えと・・・彼、ここに来る途中の道で大怪我して倒れてたんだ。だから俺達が応急処置をして病院に運んだんだけど・・・どうしてもここに行くって聞かなくってさ・・・で、理由を聞いたらエアルって言う女の子と約束してるって言ってたから・・・」 エアルちゃんの目にまた薄っすらと涙が・・・でも今度のは悲しみとはまた違う感情からみたいだね♪ 「ハイ、このメモに病院の名前と彼のいる病室の番号が書いてあるから」 クロスの出したメモを受け取ったエアルちゃんは、走って行こうとしたけど・・・ 「ちょっと待って!」 僕は彼女を引きとめた。だって・・・ 「彼に会いに行くのにそのカッコのままじゃあれでしょ?」 病院のすぐ近くにあるショッピングモールで服を探して、そこで経営している知り合いのメイクスタジオを借りて彼女にメイクを施す。僕の腕の見せ所だ。 「さぁ、今度こそがんばって」 「本当に・・・有り難うございました」 彼女は微笑んでふかぶかと礼をして病院に向かって行った。 「・・・やっぱり・・・恋する乙女ってのは綺麗だねぇ♪」 クロス(以下K)「なぁサティロス、お前なんであんな所にいたんだ?」 Sa「あんなところ?」 K「現場だよ、しかもお前殴られてるし・・・」 Sa「何?心配してくれてるの?優しいなぁ、クロスは♪」 K「なっ!(赤面)ちげーよ!バカ!!」 バシィ!! K「じゃあな、俺はもう帰るぜ!!」 Sa「アタタタ・・・乱暴だなぁ、一応僕も怪我人なのに・・・」 ネメシス(以下Ne)「そう言うわりには顔が笑ってるわよ?」 Sa「あ、姉さん・・・だってクロス、いつもああやって別れる時は僕の背中叩いて行くんだよ?しかもその力加減が感情によって変わるから面白くってさ♪ついついからかっちゃうんだよねぇ(笑)」 Ne「ほんと、アナタ達よく似てるわ・・・素直じゃない所なんてそっくりよ?(笑)」 Sa「兄弟だからねぇ♪」 『ビューティーサロン・アーディン』 そこには『神の腕』を持つ店長がいる・・・ 化粧は女性を美しくするための物 化粧は心に施す物 化粧は一歩足を踏み出すための 勇気を与えてくれる物・・・ 「いらっしゃいませ、お客様。本日はどのようなヘアースタイルとメイクをご希望ですか?」 END |
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