Beauty&Stupid



「・・・・アリスの・・・気持ち・・・・・・か・・・・・・・・」

 キラに殴リ飛ばされた状態のまま、しばらく呆然としていたウィルドが呟いた。

「ごーくん、大丈夫?・・・」

 澪は手に濡れタオルを持ち、ウィルドの殴られた頬を冷やしている。

「にしても・・・酷いよね・・・いきなり殴るなん・・・・・・・・」

「みーくん、ありがと・・・もういいよ・・・・」

 澪の言葉を遮り、ウィルドは自分の頬を冷やしてくれていた彼女の手を止める。

「でも・・・」

「いいんだ・・・・・・みーくん、お願いがあるんだけど・・・」

 彼は俯いたままそう言った。彼女の手に触れている彼の手が・・・小さく震えているの

が解った。

「なに?・・・何でも言って・・・・」

 そんな彼の手を優しく包み込んで彼女は答える・・・・自分にとって嬉しくないお願い

が来ると解っっているのに・・・

「しばらく・・・俺を一人にして・・・・・・・くれないかな?」

「・・・・どうしても・・・一人になりたい?」

 俯いた彼の顔を覗き込み、彼女は問うた。

「うん・・・・ごめんね・・・・」

「ごーくんが謝ることじゃないよ・・・・・・・・・ねぇ・・・・ごーくん・・・・・」

「・・・・ん?」

 まだ俯いたままの彼の頬を優しく両手で包み顔を上げさせる。彼の目にはうっすらと涙

が・・・・

「僕は・・・・どんな事があっても君の味方だから・・・」

「・・・・・・・・・・・」

 ウィルドの額に自分の額を当て・・・・・

「僕は・・・君が好きだから・・・」

 優しく囁いた・・・

「・・・・みーくん・・・・俺・・・・・・」

「・・・何も言わなくていいよ・・・解ってるから・・・・・・・・じゃ、またあとでね

・・・・・・」

 そして・・・彼女は部屋を出て行った。

 一人になったウィルドの目から、我慢していた涙が零れ落ち・・・・彼はすぐ近くに

あった鏡に映る自分自身を殴りつけた・・・・・・・

 

 

 廊下に出た澪は目を閉じ、うさぎの耳に神経を集中してある声を探した。ついさっき、

ウィルドを殴った赤い髪の・・・・・

「・・・・見つけた・・・・」

 彼女はすぐさま足の裏にローラーを出すと、目的地に向かって走り出した。

 

 ちょうど澪は廊下に出たころ、キラは・・・おそらく書類の提出でもしてきたのだろう。

アリスを見つけ、彼女を連れて近くにあった休憩所に入り、ベンチに腰掛けた。

「・・・・・・・・・・・・・・・」

「・・・・・・・・・・・・・・・」

 だが、二人とも無言で・・・・彼女を呼び止めたキラでさえ、何を話して良いかわからない。

「・・・・・・・・・・・・・・・」

「・・・・・・・・・・・・・・・」

「・・・・・・・・・あのさ・・・・・」

 しばらくの沈黙の後、キラがなにかを言おうと口を開いた・・・だが。

「こんな所にいたんだ・・・・」

 あまり聞きなれない少女の声、視線を動かした先にいたのは・・・・・・

「・・・なんだよ・・・何か用か?・・・・」

「用がないのに声掛けたりしないよね、普通」

 今は二番目に会いたくない人物・・・澪・レイビートだった。

「俺達は別に用ないから・・・・」

 そう言ってキラは表情を変えないアリスを連れて行こうとしたが・・・

「キミ達になくても僕にはあるんだよ・・・・・・」

「一体なんだ・・・・」

 

 パシィン!!

 

 一瞬何が起こったのか解らなかった・・・しばらくして、頬の痺れるような痛みと、澪の上がった腕から、振り向いた瞬間に彼女に手の甲で殴られたという事がわかった。

「な・・・何するんだ!!」

「・・・さっきキミはごーくんを殴っただろ?そのお礼さ・・・・」

 先ほどまで笑っていた彼女の顔が急に変わる・・・視線も刺す様な鋭い物に変わっていた・・・

「・・・・・ごーくんの事を良く知りもしないで・・・勝手な事言って彼を傷つけないで・・・」

 その声には憎悪がこもっていた・・・低く・・・冷たく・・・少女の声とは思えないような声・・・・

「人間失格?ふざけないでよ、どうして君にそこまで言われなきゃならないのさ・・・さっきも言ったけど、君はごーくんの何を知ってるって言うの?それに・・・その子の気持ちを考えてないだって?そんなわけないだろ・・・ごーくんは僕に逢ってからもその子の事ばっかり気にしてた・・・一緒にいても・・視線はいつもその子を探してた!!」

「・・・・・・・・」

 澪の目には涙がたまり始め・・・

「ごーくんはね!僕が何回好きって言っても、僕の事を恋人としてみてくれないんだよ!!キスしようって言ってもしてくれないんだよ!!」

 とうとう・・・彼女の瞳から大粒の涙が零れ落ちた・・・

「こんなに好きなのに・・・愛してるのに・・・ごーくんが見てるのはその子なんだもん・・・3日前、僕が初めて彼に好きって言ってキスしようとした時・・・彼は首を横に振ってこう言ったんだ・・・」

 澪はキッとアリスを睨みつけウィルドの言葉を彼女に伝えた・・・

 

 『みーくん・・・君の気持ちは嬉しいよ・・・でも、俺は君の事を親友だと思ってた・・・ううん・・・今もそう思ってる・・・それに、俺が愛してる人はアリスなんだ・・・さっき言っただろ?あの子が俺の彼女なんだ・・・彼女以外は・・・愛せないんだ・・・・・・だから・・・君の気持ちに答える事は出来ないよ・・・・・・ごめんね・・・・

 

「確かにごーくんは情けない時もあるし、泣き虫だけど・・・でも、ごーくんは誰よりも純粋で素直な心を持ってる人なんだ・・・嘘は絶対につかないんだ・・・・・・・・・彼は・・キミ達が思ってるほど大人じゃない、むしろまだ・・・小さな子供のままなんだ・・・」

 ・・・それを聞いたアリスは何も言わずにその場を去って行く。

「・・・・アリス!・・・・・」

 その後をキラが追おうとしたが・・・

「追いかけてどうするつもりさ・・・」

 澪に腕を捕まれそれを阻止去れる。

「さっきの言葉を聞いても何も思わないんだったら・・・彼女の方こそ人間失格だね・・・」

 そんな澪の言葉にキラがカッとなり反論しようとするが、

「だってそうでしょ?なんだかんだ言っても彼女自身、自分の気持ちしか考えてなかったんじゃない?だからこの3日間ごーくんの前に姿をあらわさなかった・・・僕がいるから会い難いなんて言っても、それこそ自分に勇気が無い事を人のせいにしてる証拠だしね・・・」

 またもやあの冷たい視線で睨まれ、叫ぼうとした言葉が押し込められる。

「それに・・・キミにも原因があるの・・・自覚してる?」

「・・・・どう言う事だよ・・・」

「キミ達、ごーくんが仕事してるときもよく二人で遊んでたんでしょ?・・・自分が死ぬ思いで戦ってる時に・・・彼女が他の男と遊んでたら誰だって良い思いはしないよ・・・」

「・・・ただゲーセンで遊んでるだけじゃないか!」

「ある意味さっきキミが言った言葉、そっくり返せるんじゃないの?ごーくんの苦しみも知らないで君達は遊んでたんだから・・・」

「・・・・・・」

「彼女と遊びたいんだったらその格好と言葉、治した方が良いんじゃないの?そんな格好してるから、ごーくんが君の事男だと思って誤解するんだよ・・・女の子同士なら遊んでも誰も文句は言わないだろ?」

「・・・・・・なんで・・・女だって・・・・・」

 驚いた様子のキラを見て、澪は少し笑って。

「・・・わかるよ・・・いくら隠そうとしても隠し切れるものでもないし・・・なにより・・僕も昔自分が女って事隠してたからね・・・なんとなく・・・ぴーんってね・・・」

「何で・・・隠してたんだ・・・?」

 そんな彼女の言葉にキラは訝しげに聞いた。

「・・・君は・・・メカニロイドに愛の告白をされて嬉しいかい?ちっぽけな・・レイビットに・・・」

「・・・・・・・?」

「僕は・・・・異性として告白して・・・この友情を壊すくらいなら・・・いっそ・・・同性で共に暮らすことを選んだんだ・・・おかげで・・・彼とは無二の親友になれたけど・・・」

「・・・・・愛してもらえなく・・・・なった・・・・・?」

 その言葉に静かに澪は頷く。

「さっき伝えた言葉どうりだよ・・・彼は僕の事・・友達として好きだけど・・・彼女としての好きって感情を持てないんだって・・・」

 そんな澪の様子を見て・・・キラに一つの疑問が浮かんだ。

「・・・じゃあなんで・・・今まで一緒にいたんだ?・・・辛くないのか・・・?」

「辛くないわけないだろ・・・でも・・・僕が彼を好きなんだもん仕方ないじゃないか・・・この気持ちを止める権利なんて誰にも無いよ・・・」

 そして澪もその場を去った本当なら真っ先にウィルド・・・ごーくんの元へと行きたかったが・・・彼女は彼の部屋とは正反対の方向へと歩き出した・・・

 

 

 

 澪とキラからはなれ、一人歩いていたアリスのまえに・・・目を赤くしたウィルドが現れた。彼の頬は腫れており、唇も少し切れているようだ。そして、右手には大量の切り傷が・・・・・・どの怪我もまったく治療を施していない状態で・・・・・・

「・・・・アリス・・・・聞いてほしい事があるんだ・・・・・・・・・・」

 かすれた声で言う・・・聞きたくないと言って、その場から立ち去ってしまえば、彼は追いかけてくる事もないだろう・・・だが、アリスは何も言わずその場を動かなかった・・・・

「・・・・あのね・・・俺・・・最近・・・・君の気持ちがわからなかったんだ・・・・」

 少し俯き加減で話し始める・・・

「それで・・・アリス・・・火澄とばっかり出かけてるから・・・・・俺・・・・・・・・・・・嫌われたんだと思ってた・・・・・・・・・・・・でも・・・・違ったんだね・・・・」

 ウィルドの目から再び涙が溢れ出す・・・

「・・・っく・・ごめ・・・俺・・・自分の事ばっか・・・・ごめん・・・・・・ごめんね・・・・」

 泣きながら『ごめん』という言葉を繰り返す・・・

「今更・・・・・・・なに勝手な事言ってるのかって・・・・・・・思うかも・・・知れない・・・けど・・・・・今更・・・・信じられないかもしれないけど・・・・・・・俺・・・俺が好きなのは・・・・アリスだけだから・・・・・本当に・・愛してるのは君だけだから・・・・」

 彼の涙は・・・大粒の雫となって零れ落ちた・・・・・







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