致命傷
「・・・言いたいことはそれだけ・・・?」 ウィルドの体が震える。自分の知っている声じゃなく、冷たい声だった。 「・・・じゃあ・・・ぼくの番だね・・・」 ウィルドは、アリスの声を聞いて恐る恐る顔を上げる。 アリスは涙を浮かべて、力なく笑っていた。 「アリ・・・」 「・・・近づかないで・・・」 アリスの言葉に、ウィルドは足を止める。 先ほどから、アリスの息が荒い。 顔にうっすらと汗が浮かんでいる。 「・・・めんね・・・でも・・・ぼくには資格がないんだ・・・」 「・・・資格って・・・なんの・・・?」 「・・・血に汚れすぎたんだ・・・こんな体を抱きしめてもらう資格なんて・・・ぼくにはないんだ・・・」 「・・・キラ、その傷を冷やすためにわざわざここまで来たのか?」 サクヤは飽きれたように、地面の雪にへばりついているキラを見る。 「・・・いいの。俺の勝手だろ?」 キラは文句を言うと、ひょこっと起きあがる。 「ねぇ、サクヤぁ・・・」 「なんだね?」 子猫を抱いていたサクヤは、キラのほうを振り向く。 「アリスさ・・・俺になんか隠してない?今日、いつもより少し様子が変だったんだけど・・・」 キラがつまらなそうに言うと、サクヤは血相をかえて立ち上がる。 「サク・・・」 「キラ!翡翠とマックスを呼べ!!早くしろ!!」 「な・・・なんでだよ!!」 サクヤはいったん止まると、吐き捨てるように叫ぶ。 「動力炉すれすれに刃が刺さっているんだ!今日は外せない用事があると言うから応急処置だけして二時間だけ時間をやった・・・その結果がこれだ!!」 サクヤはそれだけ言うと、部屋から走り去っていった。 キラは少しだけポカンとしていたが、すぐに立ちあがると、医療室の方向へ走った。 「・・・資格なんて・・・必要ない・・・」 ウィルドの声を聞くと、アリスの表情が変わる。 「・・・人殺しになっちゃったんだよ?」 「相手はイレギュラーなんだ・・・仕方のないことじゃないか・・・」 「ぼくは悪魔なんて呼ばれてる・・・ぼくと一緒にいたらウィルドくんまで・・・」 「そんなことどうでもいい・・・」 アリスは再び力なく笑うと、ゆっくりと口を動かした。 「・・・優しすぎるんだよ・・・だから・・・甘えちゃうんだよ・・・」 アリスは倒れこむようにウィルドに抱きつく。 ウィルドも、アリスの体を支えるように抱き留める。 「・・・このまま・・・少しだけ・・・」 アリスはそう言うと、少し離れてウィルドと唇を重ねる。 ほんの少しの時間。だが、二人には至福の時だった。 しばらくして、いったん離れるとアリスは再びウィルドに身を任せる。 「・・・ずっと・・・こうしていたいね・・・」 「うん・・・」 「もう・・・離さないで・・・」 ウィルドはアリスの言葉を聞くと、抱きしめる手に力を加える。 「ウィルド・・・ぼく・・・」 「なに?」 ウィルドはアリスの顔が見えていないが、泣いているとわかった。 「大好きだよ・・・ウィルドのこと・・・」 「・・・俺も」 アリスはそれを聞くと安心したのか、ウィルドにかかる重みが少し増えた。 「・・・アリス?」 「ごめんね・・・ちょっとだけ・・・眠らせてね・・・ウィルド・・・」 アリスはそう言うと、静かに目を閉じる。 ウィルドは横目でアリスの寝顔を見て微笑む。 (・・・俺のこと・・・名前で呼んでくれたんだ・・・) (明日は1日アリスに付き合ってようかな・・・?火澄にとられたら嫌だし・・・) ウィルドは顔を緩め、微笑しながらそんな事を考えていた。 だが、少しして右手に生暖かい、ぬるっとした感触が伝わってくる。 自分の知っている液体の感触に似ていて、震わせながら右手を見ようとする。 「・・・血・・・・・・」 思わず呟く。 真っ赤に染まった右手とアリスの背中を見ながら。 「アリス!?」 アリスの体を揺すって、名前を呼びつづける。 「・・・な・・・に・・・?」 「アリス!!この怪我・・・」 ウィルドが顔を蒼白にしている事から、自分のことなのだと、アリスは悟った。 「・・・なんでもないの・・・ちょっと・・・ドジしちゃって・・・」 舌を出して笑うアリスを抱えると、ウィルドは一目散に走り出した。 「・・・ウィルド・・・ごめんね・・・かって怒って・・・迷惑かけて・・・」 「そんなことない!!はやく・・・」 (はやく医療室に!!) それだけを考えて、ウィルドは走っていた。 |
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