OBLAAT
また・・・守れなかった・・・ あの時も・・・今回も・・・・ ただ・・・赤く染まる君の身体を抱き締める事しか出来なくて・・・ 「・・・・・・」 治療室のベッドで少女が静かに眠っていた。その傍らには椅子の背を前にして座っている金髪の少年が・・・ 「・・・アリス・・・・早く起きないかな・・・」 まるで留守番を任された子供が母の帰りを待っているかのように拗ねた口調で呟く・・・ふと、少女の手に自らの手を重ねてみる。 「・・・ちっちゃいな・・・・」 少女の手は小さく、可愛らしかった。自分の物と比べると、さらにその違いが際立つ・・・白く細い少女の手・・・ 「・・・ごめんね・・・・アリス・・・・」 少年は優しく眠っている少女の髪を撫でた。 もし・・・自分がもっと彼女を信じていれば・・・ もし・・・みーくんに出会った時、部屋を出て行った彼女をすぐに追いかけていれば・・・ もし・・・彼女の傍を離れずにいたならば・・・・ 後悔ばかりが頭の中をまわる・・・ 「・・・・・・・」 その時、俯いていた少年は窓の外に微かな気配を感じ取った。 「・・・・アリス・・・俺、ちょっと用事が出来ちゃったから・・・行って来るね・・・すぐ戻るから・・・・・・・・」 そして、少年は静かに治療室を出て行った・・・ イレギュラーハンターベースの裏側、人がまったくと言って良いほど来ないこの場所に、一人の男が震えながら立っていた。 「・・・今度こそ・・・・・悪魔を・・・・」 「あんた・・・こんな所で何してるんだ?」 不意に声をかけられ、男の体が強張る。男に声を掛けたのは金髪の少年・・・ 「ここは関係者以外は立ち入り禁止だ。出てけ」 表情を変えず淡々と告げる少年。だが、男は相変わらずブツブツと何かを言っているだけで・・・ 「・・・出てけって言ってるんだ・・・・早くしないとイレギュラーとみなして捕まえるよ・・・」 少年がこのような話し方をするのには理由があった・・・今向かい合うようにして立っている男から感じられる気配・・・それは・・・『殺気』・・・この男は誰かを殺すためにここに来たのだ・・・ 「何がイレギュラーだ・・・・・・何がハンターだ!!所詮貴様らのやっている事は人殺しじゃないか!!・・・俺の妻は・・・ハンターに殺された・・・」 男は叫んだ・・・そして、隠し持っていたナイフを構え・・・ 「助けてと悲願する妻を・・・・銀髪の悪魔が殺したんだ!!」 そして少年に斬りかかる。だが、少年は事も無げにナイフを自らの右手に刺させると、そのまま柄を握っていた男の手を掴み・・・ 「・・・・だからどうしたって言うのさ・・・」 少年は冷たい瞳で男を見据える、先ほどよりも鋭く、殺意のこもった瞳で・・・ 「逆恨みもいいとこだね。ハンターに殺されたって言うならその人もイレギュラーだったんだろ?イレギュラーの命乞いを聞く奴はただの甘ちゃんだよ・・・どうせ背中を見せたら攻撃を仕掛けてくるに決まってるんだ・・・」 少年の手に力が入る、掴まれている男の手が、ミシミシと音を立て始めた。 「・・・あんたさっき・・・『銀髪の悪魔』って言ったよね・・・・・・アリスを刺したのはあんたなんだ・・・」 ゴキャ・・・ 「ぎぃぁぁぁぁぁ!!!!!」 鈍い音と共に男の悲鳴が上がる、少年が掴んでいた男の手を握りつぶしたのだ・・・男はもがき、少年から離れようとするが・・・・・・少年はその手を離さない・・・ 「・・・・あんたに見せてあげるよ・・・本当の『悪魔』をさ・・・」 そう言って握っていた手の力を緩めると・・・少年は不適に笑い・・・ ヒュ、ドガァ!! 次の瞬間男の体は宙を舞っていた・・・少年の強烈な蹴りが男の頭部に直撃したのだ。その時手に刺さっていたナイフが反動で抜け落ち、大量の赤い液体が流れ出した・・・だが、そんな事はお構いなしに少年は走り出し、地面にバウンドした男の顔面を赤く染まった手で掴み・・・そのまま・・・ バグゥ!! 男の頭を地面に叩きつける。地面には男の頭を中心に蜘蛛の巣状のヒビが広がっていた・・・ 「まだ音声認識装置は生きてるね・・・よく聞いて・・・」 少年は男を片手で押さえつけたまま囁くように言って聞かせる・・・ 「まだ生きていたいなら・・・二度とここに近づくな・・・」 言いながらも少年の手から力が抜けることはなく・・・ メキ・・・メキメキメキ・・・・・・ 「・・・・本当なら・・・お前の頭をこのまま握りつぶしてやりたいところだけど・・・それを彼女は望んでいない・・・」 そして男からようやく手を離すと・・・ 「・・・俺の前から消えろ・・・」 ようやく開放された男は、ふらふらしながらその場を去って行く・・・・少年はその後姿が見えなくなるのを確認すると・・・ ダンッ!! ベースの外壁に両手を突き・・・ 「・・・はぁ・・・・・はぁ・・・はぁ・・・・・・落ち着け・・・もう敵はいない・・・もう・・・大丈夫・・・大丈夫・・・・・・・」 肩で荒く息をしながら、自分に言い聞かせる。もう戦わなくて良い、敵はいなくなった・・・と・・・ 「はぁ・・・はぁ・・・はぁ・・・はぁ・・・・・・・・・・・・ふぅ・・・・・?・・・あ゛」 ようやく落ち着きを取り戻した少年は、壁にべっとりと付いた赤い手形と自分の手。そして地面に付いた蜘蛛の巣状のヒビに気付き・・・ 「あ・・・ははは・・・・どうしようこれ・・・」 苦笑した少年には先ほどまでの恐ろしさは微塵もなく・・・歳相応の・・・むしろそれよりも幼い表情を浮かべていた。 「えっと・・・とにかくまずは手当て・・・かな・・・このままじゃアリスのとこ行けないし・・・アリス・・・もう目、覚めたかな・・・・」 ベース内に戻ろうとして、また忘れていた壁の手形と地面のヒビが目に入り・・・ 「あとで総監に謝りにいこ・・・はう・・・やっぱり怒られちゃうかなぁ・・・」 少年は医療室へと走って行った。 「・・・・ごーくんったら・・・少し甘くなったんじゃない?・・・・」 「え?」 「あ、ううん。何でも無い・・・こっちのこと♪」 治療室で話をしているのは銀髪の少女と淡い桃色の髪の少女。 「・・・あの・・・・」 「僕の言った事、ちゃんと覚えててね?ごーくんいじめたら僕が許さないから」 銀髪の少女が何かを言おうとしたが、桃色の髪の少女はそれを遮り部屋から出て行こうとする・・・ 「あ、あれ?みーくん?どうしたの?」 すると、丁度ドアが開き、金髪の少年が中に入ってきた。 「ごーくんVvちょっとアリスちゃんとお話してただけだよ♪じゃ、またね♪」 桃色の髪の少女はそう言うと、投げキッスをして部屋から出ていった・・・ 「??」 少年は不思議そうに少女が出て行くのを見ていたが・・・ 「・・・あ、アリス!目が覚めたんだね・・・よかった・・・・」 すぐにベッドの上に座っている少女に気が付き、彼女に駆け寄った。 「ん・・・ごめんね・・ウィルド・・・その・・・心配かけて・・・」 「ううん、アリスが元気になってくれればそれでいい!ねぇ・・・アリス・・・」 「なに?」 「あのさ・・・外に出ても良くなったらさ・・・・遊びにいこ・・・2人っきりで・・・アリスの行きたい所、どこにでも連れてくからさ・・・・」 少女は静かに微笑み・・・ 「うん、連れてってね約束だよ?」 「うん!約束!!」 『ごーくんはね・・・泣き虫だけど・・・自分の事で泣くわけじゃないんだよ・・・本当に大切な人・・・恋人、友人・・・自分が愛していると思う人が傷付いた時・・・彼は涙を流すの・・・君は愛されてるんだよ・・・それだけは・・・忘れないでね・・・』 END |
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