THE HAPPENINGS OF A CERTAIN DAY
消灯時間も過ぎ、電気の消された廊下を一人懐中電灯を照らしながら歩いて行くというのは・・・それなりに恐怖心をあおるもの・・・ 「・・・二人が戻ってくるの待っていた方が良かったかもしれませんね・・・・」 アポロは結構な怖がりなため。暗闇はともかく、それによってもたらされる相乗効果に恐怖心が更にふくらみ・・・今更ながらミスティルに付いて来て欲しいと言わなかった事を後悔していた。 そんな時、外からインドラが何か叫んでいる声が聞こえ、 「・・・なんだか楽しそうですね・・・・」 早く戻ってきて欲しいのに・・・と少し拗ねた様な気分になる。 ちなみに、このときインドラはアプサラスにからかわれて『楽しい』どころかある意味大変な状態ではあったのだが・・・ 「・・・はぁ・・・情け無い・・・」 己の不甲斐なさに思わずため息が漏れる。男性型として生まれているはずなのにその行動や性格から女性のようだと言われ、何とか男らしくしようとはしているのだが・・・ 「・・・怖いものは・・・怖いんですよ・・・ね・・・・」 そしてまたため息をつく。 ガタンッ!! 「!?」 その時、何処からとも無く大きな音が聞こえアポロは身を強張らせた。 耳を澄ますと、がたがたという音はどうやらこの先にある病室から聞こえてくるようで、彼は恐る恐るそこへ足を運んでいった。 今の時間帯は入院している者達も傷の回復の為に完全に『眠って』いるはず・・・ い・・・いいいいいいい一体何がっ!? 軽いパニックに陥りながらも足はゆっくりとではあるがその物音のする病室へと向かう。 今すぐこの場から逃げ出したいという気持ちが心の大半を占めているにもかかわらず、足はその部屋へとどんどん向かっていく。 ガタッガタガタガタッ!! とうとう物音のする部屋の前まで来てしまった・・・アポロは数回息を大きく吸い込むと、ドアの開閉ボタンに手を伸ばし・・・ 「・・・だ・・誰かいるの・・・です・・・か?」 真っ暗な室内を懐中電灯で照らし、ゆっくりと明かりを動かす。 「これは・・・」 ここは一人用の病室で中にはベッドが一つ・・・普段なら綺麗な・・・というよりも殺風景な部屋が、今はまるでひっくり返したようにぐちゃぐちゃになっていた。 ガタン 「っ!?」 ちょっとした物音にも過剰に反応してしまい、今にも泣き出してしまいそうだ。 こ、こここ怖い怖い怖い怖い怖い!怖い!!怖い!!!怖い!!!! 恐怖のあまりどうにかなってしまいそうになりながらもこの場から逃げ出すことが出来ない。プログラムに書き込まれた正義感が逃げ出すという行為を許さない・・・ カタ・・・ 「!!」 ちいさな物音にびくっと反応し、音のした方をゆっくりと照らす・・・そこには・・・・ 「・・・?・・・・」 床に広がったシーツの上に体を抱きかかえる様にしてうずくまっている人影。 その人物を見付けた時、すでに今まであった恐怖感というものは消えうせていた。元々、彼が感じる恐怖は『得体の知れないもの』を目の当たりにした時に起こる。たとえば、そこにいるのが凶悪な殺人犯でも、彼は怖いとは思わないのだ。 「!?どうしたのですか!?」 その人物をよく見れば所々に治療の跡、この病室二入院している患者であろう。慌ててその人物の傍に駆け寄り、肩に手を掛けようとした。瞬間 バシッ! 「触るな!」 手を払われ怒鳴られる。その声は、平均よりは少し低く感じられるが。紛れもなく女性の声。その女性はどうやらアイセンサーの手術を施したらしく、両目を包帯で包まれていた。 「ここは何処だ!?私は・・何故このようなところにいる!?」 おそらく気を失っている時に運ばれてきたのだろう。目が覚めても、視界に光が入らず。パニックに陥っているようだ。 「落ち着いて・・・・ここはN地区54ブロックの外れにある診療所です。貴女はアイセンサーに支障をきたしここへ運ばれてきました。覚えはありませんか?」 優しい口調で、相手を刺激しないようにそう告げる。すると、その女性は思い当たるふしがあるのか・・・幾分落ち着いた口調でこう言った。 「・・・では・・ここは・・・病室・・・・?」 「ええ」 女性が少しだが落ち着いた事を確認すると、アポロは彼女を椅子に座らせてからぐちゃぐちゃになったベッドのシーツを取り替え綺麗にした。 そして、そのベッドへ彼女を寝かしてから倒れた花瓶やめちゃくちゃになったカーテンを取り替える。 その作業をしている間も、アポロは少しでも不安を和らげようと女性に話し掛けていた。彼女も最初あれほどパニックになっていたとは思えないほど落ち着きを取り戻し、彼と談笑できるようになっていた。 「ふぅ。・・・それでは私はこれで・・・」 「あ・・あの・・・」 ようやく全ての作業が終わり、病室を出ようとした時・・・女性に声をかけられ阻止される。 「?・・・どうしました?」 ベッドのすぐ近くまで行き。そう、優しく尋ねるが・・・彼女は何も言わずに手探りで彼の服の裾を掴んだ。 「?・・・・」 しばらくの間、彼女の意図していることが掴めず困惑していた彼だったが・・・ 自分の服の裾を掴んでいる彼女の手が・・・小刻みに震えている事に気が付いた・・・・どうやら彼女は光の見えない暗闇の中でとてつもない不安と闘っているようで・・・心細いのだろう・・・ きっと、誰でも良いから傍にいて欲しいのだ。 「・・・もうしばらく・・・ここにいても宜しいでしょうか?もちろん、貴女さえ宜しければですが・・・」 そう結論付けたアポロは控えめに、だが優しく尋ねた。 その言葉に女性が小さくうなずく。 やはり・・・思ったとおりのようですね。 そんな彼女の様子に笑みがこぼれる。 「では・・・貴女が眠りに付くまで・・・ここにいさせてくださいね」 ベッドの横にある椅子に腰掛け、彼女の頭を優しく撫でる。すると、安心したのか、彼女の体からすっと力が抜けるのを感じた。 きっとこの人も私と同じ・・・起動してからそれほど月日が経過していないのですね・・・ それなのにこんな事になってしまって・・・・まだ経験の浅いこの人がパニックに陥るのも無理はない・・・ まぁ、私もあまり人のことは言えませんが・・・ そんなことを考えながら、彼は彼女が眠りに付くまで、彼女を安心させる為にそばについていた。 そんな二人を入口から(怪しく)見守る三つの影。初めは、見回りに行くと言って部屋を出ていったきり、なかなか帰ってこないアポロを心配してきていたのだが・・・・ 「アッ君が看護レプリだったら良かったのに・・・もったいない・・・・」 「本当は戦闘タイプなのよね・・・なのに料理もお掃除も本当に上手」 「あいつ親父さんの身の回りの事もしとるからな・・・家事一般はほぼ完璧にこなしよる」 アプサラスとミスティルの言葉に、何故かインドラが自慢げに言う。そんな彼にアプサラスは・・・ 「ドラちゃん。アッ君って良いお嫁さんになるわよ!今のうちにキープキープ!!」 「せやから何でお前はそういう事を!!」 「静かに!気付かれちゃうでしょう!?」 それでも、まだ声を殺して言い合っていたため、中の二人には気付かれていなかった。 「にしても・・・このままいったらあの二人、かなりいい感じになるんじゃない?なんだかすでに恋人同士みたいな雰囲気だし」 ミスティルが呟くようにいった事に、インドラの動きが止まる。 「あ〜、確かに。心細い時に傍にいてくれた人ってかなりポイント高いもんね〜♪」 きゃいきゃいと騒いでいる二人の会話はインドラの耳に届いていなかった。 「・・・ほな、そろそろもどろか・・・」 静かにそう言い、二人の背を押してこの場から離れようとする。 「・・・ドラちゃん?」 押されるまま、その場を離れた二人だったが。先程から一言もしゃべらないインドラに、アプサラスが声をかけた。 「どうかしたんですか?」 ミスティルも心配そうにインドラの顔を見上げる。 「・・・わい、ちぃと用事思い出したわ。先に戻っといてくれへんか?寝とってもかまへんし」 「え?・・・別にかまわないけど・・・・」 「ほな、ちょっくら行ってくるわ」 二人の返事もろくに聞かず、インドラは踵を返し、今歩いてきた廊下を戻っていく。 そんな彼の様子をしばらく呆然と見送っていた二人だったが・・・ 「・・・用事って・・やっぱりアレかしらん?」 「まぁ、これまでの経過を考えるとそれ以外は考えられないわよね」 アプサラスは心底楽しそうに、ミスティルは苦笑して、彼の後を気付かれないようについていった。 「アポロ・・・」 患者の女性が完全に眠りに付いた事を確認して病室を出たアポロに低い声の男性が彼の名を呼び、近付いてきた。 「あ、インドラ」 電気が全て消された廊下は月の光で明るく照らされていて、アポロはそのおかげで自分の名を呼んだ人物が誰かしる事が出来た。 「一体どうしたのですか?」 アポロは不思議そうに首をかしげて、傍へ来たのに何もいわないインドラに尋ねた。 『アッ君って良いお嫁さんになるわよ!今のうちにキープキープ!!』 『なんだかすでに恋人同士みたいな雰囲気だし』 先ほどまで話していた女性二人の言葉が頭の中でリピートされる。 「なぁ、アポロ・・・・お前・・・」さっきの患者の事・・・ 「はい?」 「・・・見回り、もう終わったか?」 言おうとしていた事とは違う言葉が口から出てきて自分の事が物凄く情けなく感じる。 「いえ・・・実はまだなんです」 申し訳なさそうに視線を伏せる彼の様子に、先ほどまで考えていた事とは違う事が頭の中に浮かんできた。 「・・・さよか、ほな、とっとと終わらせてしまおや」 「え?」 その言葉に驚いて伏せた視線を上げた彼の目に映ったのは、ニッと笑ったインドラの顔。 「でも・・・」 「一人でまわるより、二人でまわった方がはよすむし・・・それに、お前さんこういうとこに一人でおるん嫌いやろ?」 「あ・・・気付いて・・ました?」 「バレバレやで」 少し顔を赤くして言う彼にくすくすと笑いながらそう言うと、どんどん顔の赤みが増していった。 「う・・うわぁ・・・・・・・恥ずかしいです・・・・」 真っ赤になった顔を両手で頬を覆い、隠すようにする仕草を一瞬可愛いと思ってしまい、かなり焦る。 「ま、まぁ。誰にでも苦手なもんはあるわな・・・ほれ、懐中電灯かしや。早いとこ終わらせてとっとと休もう。また明日から仕事あるんやし」 「はい・・じゃあ、お願いします」 苦笑して、申し訳なさそうにそう言う彼の手から懐中電灯を受け取ると、インドラはアポロの手をひいて歩き始めた。 「あっ」 いきなり手を聞かれたので、少し体制を崩す・・・が、何とか持ち直し彼の横に、並ぶようにして歩き出す。 「インドラ?」 だが、隣を歩いているにもかかわらず繋いだ手を離そうとしない彼の名を呼ぶと、彼は笑顔でこう言った。 「こうしとった方が・・・怖ないやろ?」 「あ・・・・」 隣に人がいてくれるというだけでもだいぶ違うのに・・・ 「はい、有難うございます」 その心遣いが嬉しくて、微笑みを返す。 「ほ・・・ほないこか」 その時インドラの顔がほんのり赤くなっていたが、それは夜の闇に隠れてアポロに見られることはなかった・・・ 「・・・中学生日記?」 「アプ、その例えはこの時代には合わないわ」 そんな二人の様子をまたまた影から見守る二人の会話は何処となくずれていた。 「にしても、ドラちゃんってばほんっと純情よねぇ〜♪」 また暫くの間はこのネタでインドラをからかうことが出来ると、アプサラスが小悪魔的な笑みをこぼしつつ言っていたということは、その場にいたミスティルと夜空に浮かぶ月だけが知っている・・・ END |
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後書き 当初予定してたよりも異様に長き話になってしまいました・・・(汗) 時代背景的には、イレギュラーハンターが設立されるころ。インドラもアポロも機種的には古いタイプになりますねぇ・・・それより古いアプサラスはいったいいつ作られたのか・・・私にもわかりません(爆) 今回はまだ『純情』なインドラが書けてものすごく楽しかったです(笑) こんなに純情だった彼は今ではケダモノに・・・ 橋本様、こんな駄文ですが、よろしければどうぞお納めください(^^; |