何でも屋
まぁ仕事やし、報酬もたんまりくれる言うてたさかいに・・・いっつもみたいにさっさと終わらせてはよ帰ろ思てたけど・・・ ・・・あかん・・・完璧にハマってもうた・・・
「しっかし何やここは?そこいらじゅう苔だらけやないか!!こんな場所におったら自慢のボディまで苔に埋もれてまうわ・・・」 とある研究施設の一室で体格の良い男がぶつくさと文句を言っている。 「だったら外にいれば良いよ、この暗号の解読とインプットくらいなら俺一人で出来るもの」 そう言ったのは長い金の髪を後ろで束ねた少年とも少女ともつかぬ人物・・・ 「んなこと言うたかて・・・あんたを・・・ヴィシュヌはんを守るいうんがわいの今回の仕事や、離れとったら意味なくなってまうやないか」 「だったら黙っててくれない?気が散るから」 ぴしゃりとヴィシュヌに言われ、男は肩を竦め黙り込んだ・・・ なんでこないな事になってもうたんやろ。あ〜あ、惚れっぽい自分が恨めしいわ、ほんま・・・
事の発端は昨日、イレギュラーハンター本部から依頼のメールが男に通達されたのだ。 『 お初にお目にかかるブラフマー殿 私はイレギュラーハンター総指揮官をしている者だ。 早速だが、『何でも屋』の貴殿に依頼を申し込みたい。 依頼料は貴殿の望む額を用意しよう・・・ もし引き受けてくれるなら本部に来ていただきたい 内容についてはその時お話しする・・・ 』 この音声だけのなんとも失礼なメール。初めは受ける気は無かったが、よくよく考えると最近は『何でも屋』としての仕事がまったくと言って良いほど入ってこない。 このまま行ったらわいは飢え死にか? そんな考えが頭をよぎった彼、ブラフマーは。とりあえず話しを聞いて受ける気になったら依頼料ぼったくったれ!と多少やけになりつつ家を出た。
― ハンターベース本部 接客室 ― 「まずは、来てくれてありがとう・・・私の名はシグナス、イレギュラーハンターの総指揮官をしている者だ」 ベースに着いた途端、数人のハンターに囲まれここまで連れてこられた・・・ なんやエライ無茶苦茶な事しよるなァ・・・ 「で、あんさん等イレギュラーハンターが、『何でも屋』なんぞに何用や?とりあえず話しは聞くけんど、気に入らんかったらそっこーでわいは帰る。ええな?」 まわりの雰囲気に気圧されながらも、ここに来た目的を果たす為に話しをはじめる。思っていたよりも手薄な警備に、万が一の場合はこのまま逃げる事も可能だと考えてそういった。 「・・・貴殿に依頼したいのは、ある人物の護衛・・・ヴィシュヌ、来てくれ」 ほぉぉ、これはなかなか・・・ 名前を呼ばれて入ってきたのは、美しい金の髪を後ろで束ね、純白のアーマーを身につけた・・・ 「初めまして、俺の名前はヴィシュヌといいます・・・」 ・・・えっらい美人さんやなァ・・・ん?せやけど・・・ 「ヴィシュヌ、昨日渡した資料には目を通したか?」 「はい、しかし総監・・・あの程度の作業なら護衛などつけなくても・・・?何か?」 ヴィシュヌはブラフマーの視線に気付いて話しを中断した。 「え・・・あ・・・いや・・・あんさん、男?女?」 ストレートな質問に微妙に口元をひくつかせたが・・・ 「・・・どちらに見えます?」 もうなれた、と言わんばかりにそう返してきた。 「わい的には女希望。あんさんめっちゃタイプやわ」 立ちあがってヴィシュヌのそばに行き、髪を解く・・・ 「おろしとったほうが色っぽいのに・・・何でくくってんの?」 髪をくくっていたリボンを自分指に絡ませそう聞くと・・・ 「あの・・・」 「ん?」 「危ないですよ・・・」 「へ?何がぁ!?!!!」 べしゃ 瞬間的に自分の身に起こった事を理解する事が出来なかった・・・しばらくして、自分は今何かに潰されたんだと気付く。 「・・・言うのが遅かったですね・・・」 「まぁ・・・ある意味自業自得だと思うが・・・」 「何でもええけど・・・助けてくれへん?」 このままでは本気でボディが潰されるのではないかと思うくらいの重圧。自分の上に何が乗っているのか確かめる事さえ出来ないのだ。 「シヴァ、こっちにおいで」 ようやく体が軽くなったブラフマーの見たもの。それは、黒くて大きくてふさふさした毛並みでたった今タイプだと言った人物に擦り寄るというなんとも羨ましい行動が平然と出来る『もの』・・・ 「い・・・犬ぅ?」 そう、さっきまで自分の上に乗っていたのは大きな『犬』・・・・ 「ごめんなさい、この子俺に何かあるとすぐ相手を攻撃しちゃうんです」 笑顔で言ったその言葉の内容が、かなり脅しの入ったものだったにもかかわらず、この男の頭の中は・・・ あ・・・笑うと可愛いやん・・・・ますます好みや・・・ まったく話しを聞いていない・・・と言った状況だ。 「ま・・・まぁ、今回の任務はこのヴィシュヌがある研究所からデータを取ってくるといったものなのだが、その際にヴィシュヌを護衛してもらいたいのだ。引き受けてもらえ・・・」 「わいに任しとき!!」 シグナスが最後まで言うよりも早く『何でも屋』のブラフマーは威勢良くOKを出した。 「このわいにかかればどんな危険な場所でも安心して居れるで、せやからヴィシュヌはんは安心して任務こなしてや!」 そう言って腰に手をあて豪快に笑う。その様子を見てヴィシュヌがシグナスに一言。 「・・・総監・・・俺、この人苦手みたいです・・・」 その言葉はブラフマー本人に聞こえていなかった。 それから詳しい資料を受け取り。今現在、ミッションの真っ最中と言うわけだ。 「なぁ・・・まだ終わらへんのん?」 護衛を頼まれたはいいが、まったく何も起こらない。欠伸を噛み殺し、涙目になりながらそう聞いたブラフマーの耳に、ヴィシュヌの返事の代わりに遠くの方で何かを引きずるような音が聞こえてきた。 「ようやくわいの出番かいな・・・」 自分達のいる部屋にどんどん近づいて来るその音に、ブラフマーは愛用のダブルセイバーを構える。 「もうすぐで終わるから・・・無茶はしないでよ・・・シヴァ、ブラフマーさんの援護お願い」 ゴーグルに表示される数式を解読しながらデータにインプットしているヴィシュヌは、振り向かずにそう言ったが。ブラフマーは自分を気遣ってくれている事が嬉しくて、今すぐに抱きつきたい衝動に駆られそうになる。だが、隣にヴィシュヌの愛犬シヴァがいる事を思い出し踏みとどまる。 ああもう!この駄犬さえおらなんだらすぐにぎゅーってしてちゅーって出来るのなぁ!! 今が任務中だと言う事はどうでも良いらしい・・・そんな戯けた事を考えていると、謎の音が扉のすぐ近くまで来ていた。 「ヴィシュヌはん、まだ終わらんか?」 相手の正体が分からない以上さっさとこの場を離れるのが得策なのだが・・・ 「も・・・もう少し・・・・・・・・良いよ!終わった!!」 そう叫んでゴーグルにつなげていたコードを引き抜いたと同時に、扉を突き破りどう見ても『木の幹』のような物が襲いかかってきた。 「な、何やァ!?」 いきなり襲いかかってきたその『物』に驚きはしたが・・・流石と言うべきか、ブラフマーは攻撃を仕掛けてきた『それ』を全て切り裂いた。 切り裂かれた『それ』は奇妙な色の液体を撒き散らしながらしばら蠢いていたが、しばらくするとまったく動かなくなった。 「・・・・なんやのん?これ・・・??」 動かなくなった『それ』を拾い上げ、ヴィシュヌに聞く。しばらく考えていたヴィシュヌは何やら思い当たる節があったらしい、舌打ちをして独り言のようにこう言った。 「・・・・・どうやら奴等・・・研究に成功したみたいだね・・・・」 もちろんそんな事を言われてもブラフマーにしてみれば何の事かさっぱりわからない。 「ヴィシュヌはん?」 「あ・・・ごめん、詳しい事は言えない・・・・でもこのビルを破壊するの、手伝ってほしい」 いきなり物凄いことを真顔で言われ、ブラフマーはギャグかどうか真剣に考えてしまった。 「ここにある物を残しちゃいけない。『それ』が外に出たら大変な事になるでしょう?だから爆破するの。手伝ってくれる?」 お願い、といった感じで上目遣いに頼まれる・・・ ぬおおおおおお!!!可愛いィぃぃぃ!!! 「君の願いを俺が聞かないわけないだろ?」 いきなり標準語になってヴィシュヌの肩を掴み顔を近づける・・・が。 ガブ!! ・・・・・・丁度アーマーに守られていない部分、太腿をシヴァに噛まれる。 「!!ぎゃぁぁぁ!!!何すんねん!この駄犬!!」 足に噛みついたシヴァをダブルセイバーで切り裂こうとするが、素早い動きでそれを避けられ余計頭にくる。ただ、シヴァは任務中という事もあってそれなりに手加減をして噛んだようだ。だがそれでも十分痛い、太腿にはくっきりと歯型が・・・ 「ちっくしょぉぉぉ」 いつかぜってースクラップにしてやるぅぅぅ!!! そう心に誓いながらブラフマーは部屋を出て行くヴィシュヌとシヴァの後に付いていった。
「よし、これで最後」 ビルの中に残っていた幾つかの機器で、簡易爆弾を作成しそれを手際よくセットしていく。ビルを形成している大まかな構図はすでに把握していたため、どこにセットすればこのビルが崩れるかはわかっている。 「あんさん・・ほんまに学者のサポート用レプリか?」 不意にブラフマーが質問を投げかける。だが、共に行動すればヴィシュヌがただのサポート用レプリロイドでは無いと解る・・・当然の質問だった。 「ここに来るまで、あんさんは一切戦闘には参加しとらんかったけんど・・・さっきのあんさんの動き・・・あんなもん戦闘用以外にされたらたまらんで・・・ほんま」 ブラフマーが言っているのは本当についさっきの出来事の事。このフロアに入ったとき、まだ生きていたセキュリティー機銃の放った弾丸を、ヴィシュヌは避けたのだ・・・普通のサポート用レプリロイドならば間違い無くあたっていたであろう・・・ 「・・・サポート用だよ、一応ね・・・」 「一応?」 「話してあげても良いけど、今はここを脱出する事が先だよ、お客さんも沢山来てるみたいだし」 そう言ったヴィシュヌの視線の先を見ると・・・ 「げぇ!?」 自分達が入ってきた扉。いや、それどころか、このフロアにある全ての扉のガラスの向こうに、ひしめく様にあの謎の物体が・・・ 「こりゃぁ、ちょっとしたB級スプラッタ映画みたいやなぁ・・・」 暢気に頭をかきながらそんな事が言える神経はたいしたものだ。その光景を見た者が並の神経の持ち主なら卒倒していてもおかしくないくらい不快な光景が目の前で繰り広げられているのだ。しかも脱出ルートが窓から飛び降りる以外方法は無いといった感じで。 「ここって、ビルの10階だっけ?」 「んぁ?あ、ああここは10階やさっき階段とこで見たし・・・」 一体何故そんな事を聞くのかと思っていると・・・ 「シヴァ・・・二人乗せても大丈夫?」 ヴィシュヌはシヴァの頭を撫でながらそう聞いている・・・ 二人乗せるって・・・・まさか!? 「ちょ、ヴィシュヌはん!!まさかその駄け・・・・シヴァに乗って窓から脱出する言うんちゃうやろな!?」 そんなブラフマーの言葉にヴィシュヌは不敵な笑みを浮かべ・・・ 「そのまさか。この子の脚力なめてもらっちゃ困るよ」 そうこうしているうちに扉が少しずつ壊れ始め・・・ ミシ・・・メキメキメキ・・・ 「考えてる暇は無いよ!飛び出したらすぐに起爆スイッチを押す!早く!!」 ええぃ!!こうなったらもうヤケや!! 急いでシヴァにまたがる、シヴァは割れた窓に向かって走り出した。 「しっかり捕まっててよぉ!!」 ブラフマーは前に座っているヴィシュヌにしっかりと抱きつく、窓から飛び出し地面が近づいて来たとき、最上階が爆発した。 シヴァは着地に成功し、そのままどんどんスピードをあげビルから遠ざかって行く。最高スピードに達したときのシヴァのスピードは下手なバイクよりもよっぽど早いのだ。 もうほとんど爆発の余波も感じないほど遠くに来たとき、最後にセットした場所であろう部分が爆発し、ビルは完璧に崩れ去った。
「任務完了ってかぁ」 崩れ去ったビルを眺め、ブラフマーは言った。隣でヴィシュヌは通信機を使って本部に報告している、しばらくすれば迎えのヘリが来るだろう・・・ っとそうや・・・まだ聞きたい事よーさんあんねん、忘れるとこやったわ・・・ 報告が終わって一息付いているヴィシュヌの手を取り真顔で言う・・・ 「なぁ、教えてくれるんやろ?」 真剣なその表情に、ヴィシュヌはフゥっと小さなため息をつき、話し出した・・・ 「俺は元々軍事用に開発されたレプリロイドだったんだよ『殺人操り人形(キリングマリオネット)』って聞いたこと無い?」 裏の世界を少しでも知っている者ならその名を聞いたことが無い者はいない・・・上司の命令に絶対服従のマリオネット・・・だが、その存在はレプリロイドと言うより・・・ 「まさか・・・あんさんがただの『機械』と一緒やったなんて・・・冗談やろ?」 心を持たないレプリロイドはレプリロイドではない。ただの『ロボット』だ。信じられないといった感じでそう言ったブラフマーに、ヴィシュヌは微笑んで・・・ 「俺を生み出してくれた人が途中でそれに気付いてね・・・俺に心を持たせてくれたんだ・・・でも、実験段階での『殺人』プログラムがなかなか取れなくて・・・今も俺の中にバグとして残ってる・・・」 消え入りそうな声で言った・・・そのプログラムが暴走し、愛する母おも危険にさらした事もあった・・・ 「でもね、今はそのプログラムを消すんじゃなくて、逆に応用出来ないかな?って思ってるんだ・・・あの動きはそのおかげ、俺だって、大切な人を守りたいもの・・・」 ・・・もう、あんな思いはしたくないから・・・ 最後に言った言葉はブラフマーには聞こえなかったが、その時の微笑が魅力的で・・・ 「ブラフマーさ・・・・んん!!?」 キスをした、シヴァは先ほどの全力疾走でエネルギーを消耗したらしく眠っている。突然のその行為にヴィシュヌは咄嗟に抵抗できなかったが・・・ バキィ!!! すぐにブラフマーの顔面にヴィシュヌの拳がとぶ。 「痛っつぅ〜・・・なにもグーパンで殴らんで・・・も・・・ヴィ・・・ヴィシュヌはん・・・?」 ヴィシュヌは怒りでわなわなと肩を震わせ・・・ 「シヴァとでさえ・・・ちゃんとしたキスした事無かったのに・・・・・」 「は?シヴァ(犬)?」 「馬鹿ぁ!!!シヴァ!!やっちゃえ!!!」 その叫び声で眠っていたシヴァは瞬時に飛び起きブラフマーに突進する。 「ワォォォォーーーーーーン!!!!!」 「!?ギャァァァァァァ!!!!!!」
後日、ブラフマーは報酬の代わりに自分をイレギュラーハンターにしろと言って来た。彼の戦闘能力は高く、反対する理由も特に無かったことからすんなりと入隊が決定する。 「ヴィシュヌはん!これからもよろしゅうな!!」 そこらじゅうに噛み傷や切り傷をつけながらも、ヴィシュヌの事を諦めようとしない彼にたいし、ヴィシュヌ自身は・・・ 「あ・・・悪夢だ・・・・」 と大きなため息をつくしかなかった。
「駄犬に邪魔されようがわいは諦めへんでぇ!!」
END |
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