赤い月

赤い月



 妖しく光る満月の下・・・

 二つの影が一つに・・・・

 ・・・そして小さな悲鳴・・・

 一つの影は崩れ落ち、一つの影は妖しく微笑む・・・

「・・・ありがと、おいしかったよ・・・」

 紅い唇で小さく呟いた一つの影、自身の黒き翼を広げ赤い月へと帰っていく・・・

「まだ足りない・・・もッと、もっと沢山のエネルギーがなきゃ・・・貴女に会えない・・・」

 

 

 

「これで何件目だ?」

 各部隊の隊長が集まる会議、そこでのゼロの発言にシグナスが答える。

「今回で・・・5件目だ・・・・うち3件はハンターが被害者になっている・・・」

 会議室が多少ざわめく。今回の事件・・・夜遅くに出歩いていたレプリロイドが次々に何者かの手によって殺害された・・・なんとも奇妙な方法で・・・

「レプリロイド一体分のオイルを全て綺麗さっぱり抜き取るなんざ、まず人間には出来ねぇしなぁ」

 頬杖をつき、資料用フォトを眺めながら言うゼロの横で、エックスが小さく震えている。

「(小声)・・・エックス・・・怖いのか?」

「な!?」

 急に言われ、立ちあがるエックス。

「・・・どうした?エックス・・・」

 シグナスと他の隊長達は、対策を話し始めていたため、大きな声を上げて立ちあがったエックスに驚いていた。

「い・・・いえ・・・なんでもありません・・・」

「・・・そうか」

 そしてまた話し合いが始まる。

「(小声)ゼロ!いきなり何言い出すんだよ!」

「(小声)だってお前、震えてたぜ?それに前からこういう『ホラー系』苦手じゃねーか」

「・・・そんなこと・・・・」

「ま、今回は抜けさせてもらうこったな・・・」

「・・・・・・・」

 そうこうしているうちに会議が終わり、今回の出動部隊が決まった。

「いくら深夜とはいえ、この事件は5件とも目撃者がまったくいないことから犯人は素早い動きが出来る者と見て良い。そこで今回の事件は第0特殊部隊及び第7空挺部隊の管轄と・・・」

「異議ありィィ!!!」

 叫んだのはゼロだ、隣でエックスが耳を塞いでいる・・・・

「・・・何だ・・言ってみろ・・・・まぁ言わなくてもわかるが・・・・」

 呆れた感じのシグナスに、ゼロは遠慮なく抗議する。

「オウ!言ってやる!!こんな事件はな、俺の部隊だけで充分なんだよ!わざわざマリアを危険な目に遭わせられるか!!」

 やっぱり・・・といった感じでほかの隊長達はもちろん、エックスまでも脱力した。

「お前なァ、私達がついているんだ、そう簡単に危険になど・・・」

 イーグリードが言いかけたとき・・・・

「お前みたいなトリガラ信用できるか!!」

 ゼロの一言・・・・

「んだとぉ・・・・人が親切に言ってやってりゃいい気になりやがって・・・このオカマ野郎!!!」

「なにぃ!!!」

 元々親友で言いたい事を言い合える間柄のゼロとイーグリードは会議室だというのに容赦なく大喧嘩をはじめた・・・

 ほかの隊長達はもうお手上げと言った感じだ・・・・

「いい加減にしろーーーーーーー!!!!」

 エックスの怒号に会議室が静かになる。

「ゼロ!いくらマリアが心配だからって過保護にしてもあの子のためにならないだろ!?」

「けどよぉ・・・お前は心配じゃないのかよ・・・」

「心配だよ・・・けど、あれも危険これも危険じゃハンターなんてやってられないだろ?せっかくあの子自身ががんばってるのに俺達が足引っ張ってどうするのさ」

 まるで母親に叱られた子供の様に静かになる、『赤い鬼神』も『英雄』の前では形無しか・・・

「それに、辛いのは俺達だけじゃないんだよ?ねぇ、シグナス・・・」

 いきなり話しをふられてビックリするシグナスにエックスがゼロに見えないようにサインを送る。

「あ!・・・・・・ああ・・・・私とて・・・娘の様に可愛がっているあの子を・・・マオを危険な目に遭わせたくはない・・・だが・・・あの子のためにもここは心を鬼にして!!」

 かぁなぁり、芝居くさい言動だったがゼロを大人しくさせるには充分効果があったようだ。

「・・・わぁッたよ・・・・ホーネック。第0、第7、両部隊員を集めろ、ミーティングをはじめる・・・行くぜイーグリード・・・」

 そう言って会議室を出て行くゼロは、後ろ姿でもわかるくらい大きなため息をついていた。

 

 

 現場付近での張り込みを始めて数週間目の夜、その日は赤い月が街を照らしていた。

「・・・犯人、現れませんねぇ・・・・」

 ホーネックと共に行動をしているマリアが呟いた

「このまま何も起きないでいてほしいけどね・・・」

 君が危険な目に遭ったら俺が殺されるから・・・隊長に・・・

 とは心の中だけで思っておく。だが実際、張り込みを始めてから今まで、1度も事件が起こっていないのだ。

「もしかして・・・・犯人に気付かれちゃったのかなぁ?・・・」

 そう言って軽く辺りを見まわした丁度その時・・・

「うわぁぁぁぁぁぁ!!!!!!」

「!?」

 ホーネックよりも早くマリアは悲鳴のした方向に走り出していた・・・・

「先輩!!」

 しばらく走っていくと、第7空挺部隊員の一人が腰を抜かしているのを発見した。

「何があったんですか!?」

 心配そうに駆け寄るマリアを見た隊員が・・・・

「ひぃ!!」

 彼女の手を払いのけた・・・少し送れて駆けつけたホーネックもだが。マリア自身、何故そんな事をされたのかわからない・・・

 しばらくして他の隊員達も集まってきた・・・

「一体何があったんだ・・・?」

 ゼロやイーグリードが聞いても、その隊員はがたがたと震えてマリアに怯えるだけだった。

「ぼく・・・何かした?・・・・」

 泣きそうな顔でホーネックに聞く彼女を見て、ゼロがキレそうになる・・・だが流石に怯えている隊員をさらに怯えさせるような事は出来ず、我慢しているようだ。

「マリア、そんな顔しないで・・・・」

「ウィーちゃん・・・・でも、ぼく・・・・」

 不意に辺りが真っ暗になる、月が雲に隠れたのだ。すると、まるで見計らったように・・・

『あらあら・・・可哀想に・・・貴女は何もしてないのにね・・・そんな顔しないで・・・・』

 どこからとも無く聞こえた女性の声・・・流石と言うべきか、声が聞こえた瞬間そこにいた全員が・・・怯えていた者でさえ、己の武器を構えた・・・だが・・・

「やったのは、わ・た・し。マリアじゃないわ・・・」

 声の主はこともあろうか、マリアに後ろから抱きつくかたちで現れた・・・

「そんなに怖がらないで・・・私は貴女に逢いたかっただけなの・・・」

 マリアが恐る恐る振り向く、何とか顔を見ようと目を凝らすと暗闇の中にぼんやりと相手の顔が見え始め・・・

「!?」

 雲に隠れていた月も顔を出し、相手の顔がハッキリと見えたとき・・・・驚愕した・・・ゼロも、ウィルドも、イーグリードも、何より一番驚いたのはマリアであろう、暗闇から突然出現した存在は・・・マリアによく似ていたのだ・・・

 黒いアーマーに銀の髪、鋭い目つきに紅い唇・・・マリアよりも大人びたその表情はとても妖しく、美しかった・・・

「ああ・・・ようやく逢えた・・・逢いたかったわ・・・・私のオリジナル・・・・」

 まるで長い間離れ離れになっていた恋人のようにマリアを優しく抱きしめる。

「私の名はリリス・・・覚えておいてね・・・・可愛いマリア・・・・」

 リリスと名乗ったその存在はマリアの頬にキスをした。密着していた二人の体が少し離れる・・・

「ハッ!!!」

 その一瞬の隙を突いてゼロとウィルドが同時に斬りかかる!!だが彼女はその攻撃を軽くかわした。

「あん、もっとお話したいのに・・・まぁいいわ・・・今日はご飯もちゃんと食べられなかったし・・・」

 彼女の視線は怯えていた隊員へと向けられた。隊員はその視線に体を強張らせる・・・

「・・・中途半端に残しちゃったから快楽よりも恐怖が大きく出ちゃったのね・・・ごめんなさい、今度会った時は残さず食べてあげるから・・・」

 そう言った彼女の声はあまりにも艶っぽく、こんな状況でなければ男たちは虜になっていただろう・・・

「でも、その前に・・・次のお相手は貴方にしようかしら・・・・」

 リリスはしなやかな指先で一人の少年を指差す・・・純白のアーマーを纏っているその少年の名はハルト、彼は突然の指名に驚きを隠せなかった。

「可愛いわね・・・今度一緒に遊びましょう、ボーヤ・・・」

 一瞬のうちにハルトの目の前まで移動すると首に腕を回し・・・二人の唇が・・・

「だめー!!!」

 マリアは叫ぶと同時に彼女に攻撃を仕掛けた・・が、お見通しといわんばかりにリリスは軽くその攻撃を避け宙に舞う、マリアも追いかけるように翼を広げ飛ぶ。空へと移ったリリスの背後にマオが街灯から飛び、その鋭い爪で切り裂こうとしたがそれさえも軽くかわす・・・・

「ウフフ・・・良い感じ・・・素敵よ・・・」

 赤い月を背に不敵に笑うリリスを、マリアは睨みつけた。

「あの人に何かしたらぼくが許さないんだから!!」

 そう言い放つマリアにたいし、リリスはまるで今この瞬間が一番幸せだというような微笑を見せた。

「素敵・・・その熱い眼差しで私を見て・・・もっと見つめて・・・・・」

 そんな彼女の反応に、そこにいた全員が慄いた。・・・普通じゃない・・・そんな事は当にわかっていたが、 まさかここまでとは・・・・

「リリス・・・いつまで遊んでいるんだ、帰るぞ」

 今度はどこからともなく低い男性の声が・・・

「・・・もう?・・・もっと遊びたいのに・・・」

 そう言いながらリリスが移動した先・・・そこにいたのは・・・

「!?お前は!!」

「よう・・・久しぶりだな、ゼロ・・・ん?今日はあいつは一緒じゃないのか・・・」

 リリスを抱き上げながらゼロにそう言った人物、リリスと同じ漆黒のアーマーで銀の髪を風になびかせるその青年は・・・ゼロと同じ顔・・・

「今ごろ・・・何しに出てきた・・・・レイ・・・・」

 唸るように言ったゼロ。その様子を見てレイと呼ばれた青年はククッと喉を鳴らして笑った。

「お前達が妹作っただろ?だから俺達も作ったのさ、俺達の妹をな・・・この子もなかなか可愛いだろう?」

 レイは優しくリリスの頭を撫で、リリスは嬉しそうにレイに抱きつく。

「・・・ただ迎えに来ただけじゃないんだろ?遊んでいけよ・・・」

 ゼロはセイバーを構え、戦闘体制に入る。

「確かに初めは少し遊んでやろうと思ったが・・・あいつがいないんじゃ興醒めだ・・・また今度遊んでやるよ・・・・」

 にぃっと笑うレイ、

「またね・・・今度はもっと遊びましょうね、マリア」

 その言葉を最後に二人は闇に消え去ってしまった・・・

「何っ!?くそっ!闇姫!ヒャクレッガー!!行け!!」

「御意!!」

「承知!!」

 ゼロの命令で第0特殊部隊で最も忍の能力に長けている姫とヒャクレッガーがすぐさま後を追った。



 ・・・現場からかなり離れた場所まできたとき、二人の姿が闇に溶け込むように消えた。

「!?」

 後を追っていた二人は、あわてて体制を整える。月も隠れ、アイセンサーをナイトスコープに切り替えても数メートル先が見える程度の効果しかなかった。

「おかしいですわ・・・いくらなんでも暗すぎます・・・」

「・・・どうやら・・・奴等の罠に掛かってしまったようだな・・・」

 言葉は冷静だが、二人ともかなり焦っていた・・・相手は自分達の隊長でもあるゼロのコピー・・・さらにあのリリスという女性・・・分が悪すぎる・・・

「お前、見ない顔だな・・・新人か?」

 突然聞こえた声。その声はレイのものでもリリスのものでもなかった。

「新手か!?」

 ヒャクレッガーはすばやく構えたが、姫はまったく動かない。

「どうなされた!?闇姫殿!!」

「・・・・か・・・・身体が・・・・動かないのです・・・」

 その言葉が示すとおり、彼女の体はまるで石になってしまったこのように動かなくなっていた。何とか腕だけでも動かそうとしてみるが、まるで己の身体ではないかのように言うことを聞かない。

「あははははっ無駄だぜ、いくらがんばったところで俺の呪縛は解けねぇよ・・・さらにこんな事もできるんだぜぇ!!」

 その声が言い終わるよりも早く、姫がヒャクレッガーを斬りつけた!!

「闇姫殿!?」

 かろうじてその攻撃をかわしたが、姫の攻撃はなおも続く。

「あーっはははははは!おらおらぁ!!逃げてばっかりじゃ何にもならねぇぜ!!」

 いつまでも逃げているわけにはいかない。だが、どうすれば・・・ヒャクレッガーの頭の中をその問いがぐるぐる回る。

「・・・・お・・・お逃げください・・・・・このままでは・・・・共倒れになってしまいますわ・・・」

 姫も必死に抵抗するが、まったく効果を発揮していない。

「無駄だって言ってんだろぉ?・・・さぁて、そろそろ終わりにしてやろうか・・・」

 姫の動きが緩やかになる・・・彼女が技を発する前触れ・・・発動前のモーションはゆっくりとした動きだが、はじめの一太刀が入れば後はもう成す術も無く切り刻まれるのみ・・・

「闇姫殿!!くっ・・・少々手荒な方法だが・・・辛抱めされい!マグネットマイン!!」

「何!?」

「!!っああああああああ!!!!!!!」

 ヒャクレッガーの攻撃が姫に直撃する!その瞬間、彼女の身体から何かがはじき出された。

「・・・?・・・貴様は!イクス!?」

 崩れるように倒れこむ姫を抱きとめ、彼女の身体からはじき出されたモノを見たヒャクレッガーは驚愕した。

「・・・・ちぇっ、しばらく動けそうにねーや・・・お前も急いでその女連れて帰った方が良いぜ、俺が何もしないで中に入ってたと思うか?」

 そう言ってニヤッと笑うイクス・・・ヒャクレッガーは苦しそうな姫の様子を見て走り出していた・・・

「なんだ、負けたのか?」

 ヒャクレッガーの走り去った方向とは正反対の暗闇からレイが現れた。

「ちょっと油断しただけだ」

 拗ねて言うイクスに、リリスが駆け寄る。

「イクス兄様、大丈夫?」

 そんなリリスに頬を寄せ、笑顔でイクスは大丈夫だと答える。その言葉に安心し、リリスも微笑んだ。

「しばらく遊びに行かねぇうちに、新しいのが増えたみてぇだな」

 レイにそう言うイクスの顔はまるで新しいおもちゃを見つけた子供のようだった。

「また遊びに行ってやろうぜ、今度は三人で・・・」

 リリスの頭を撫でながらレイが言う。

「ねぇ兄様、あの子の大切な人を、私が取っちゃったら・・・あの子はどんな顔するかしら?ウフフ・・・とっても楽しみだわ・・・」

 

 

 END






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