恋敵(ライバル)



 

 (月臣様のイラストより・・・)

 

 ずいっと差し出されたチョコを目の前に、少し困惑した様子のアポロ。少し考えた後、頬を桜色に染め、

「では、ありがたくいただこう・・・」

 口調はそっけないが、顔は優しく微笑んでいて見るものを安心させる。ミリアもつられるように微笑むと、彼にチョコレートを手渡そうとした・・・と、そのとき

「アーポロ♪久しぶりやなぁVv」

 扉付近から聞こえた声に二人の動きが止まる。声の方を見ると、相変わらずへらへらとした表情で、タバコをくわえているインドラの姿が。

「おんや?なんや、ミリアもおったんか、アポロに隠れてぜんぜん見えへんかったわ〜」

 

 うそつけ!

 

 ミリアは心の中で毒づくが、それがインドラに聞こえるはずもなく・・・彼はアポロの肩に手をかけ話し始めた。

 その様子を見ていたミリアは、なんだか仲間はずれにされたような気分になり、渡し損ねたチョコを持って俯いた。

「そういやさっき、向こうの方でクロスが何や言い争いの喧嘩しとったで?」

「なに!?」

「はよいかんと、取っ組み合いになりそうな勢いやったんやけど・・・」

「何故止めなかったんだ!」

「えぇ〜?だってわい、ここ(ハンターベース)のもんやないしぃ」

「くっ、ミリアすまん!」

 いきなり名前を呼ばれて、ミリアはびくっとしている。

「え?あ、何?」

「アポロもう行ってもうたでぇ」

 顔を上げて返事をしたときには、すでにアポロの姿は無く。インドラが短くなったタバコを携帯灰皿に捨てている姿が見えるだけだった。

「・・・なによ・・・もう・・・・」

 呟くように行ったミリアのすぐ隣にインドラが移動する。彼は新しいタバコを取り出し、火をつけて煙を吐くと、呟くようにこう切り出してきた。

「・・・アポロの奴が今まで・・・色恋沙汰の話がなかった理由。知っとるか?」

 何故そんなことを言い出すのか解からずに、インドラの方を見て首をかしげる。すると彼も彼女の方を見て・・・ニヤッと笑った。

「!?・・・・まさかあんた・・・」

 容姿端麗で頭もよく、優しいアポロがもてないはずがない。現に今日もこうやってたくさんのチョコレートを貰っているのだ。だが、彼には今までそういったうわさがほとんどない。一番目立った噂は、今目の前にいる男とのものだけ・・・

 それに対し、確かに容姿や性格は良いのだが、素行に問題のあるインドラは、常にスキャンダルが付きまとっていると言っていい。これが何を意味するのか・・・

 ミリアはすぐに気が付いた。先ほどのインドラの言葉、笑み、そして今までの二人の状態から解かる事・・・

「あんた・・・そんなにアポロが嫌いなの?」

 ミリアの言葉に、インドラは一瞬ぽかんとした顔になったが、

「ブッ!・・・」

 すぐに吹き出して、口元を隠し肩を振るわせ笑い出した。

「な、何よ!だってそうでしょ?」

 ミリアが言いたい事はこうだ。

 今までアポロに恋愛の話がなかったのは、彼に想いを寄せている女性をインドラが横から奪っていったから・・・何故そのような事をするのか、といった考えになったとき、それはインドラがアポロのことを嫌いだから・・・そう考えたのだ。

「ククク・・・ちゃうちゃう、その逆や」

 笑いを堪え、涙目になりながらそう行ったインドラの顔をミリアはいぶかしげに見た。彼はそのまま言葉を続ける。

「わいはな、アポロが大好きやねん。せやから、あいつには幸せになってもらいたい思とる」

「・・・だったらなんで・・・」

「まぁ聞きや。わいが今まで邪魔しとったんはな・・・あいつに言い寄ってくる女共の狙いが・・・あいつの地位や名声やったからや」

 急に声のトーンを低くしてそう言った彼の表情が、一瞬だけ真剣なものになる。

「アポロの見た目やその地位を狙ってくる女なんぞに、あいつを渡すことはでけへん・・・せやからわいは・・・そういう女に声かけて、自分のやろうとしとった事の愚かさを教えてやっとんや」

 最後の部分はまたへらへらとした表情に戻っていたので、緊張感のまったくない口調になっていたが・・・『渡さない』・・・それは彼の本心だと、痛いほど解かった。

「・・・なんでそんな事・・・私に言うのよ・・」

 戸惑うように言ってきたミリアに、インドラは微笑みかけると。

「お前さんは今までの女と違ってあいつの事よぉ知っとるやろ?せやから、宣戦布告に来たっちゅーこっちゃ」

「は?」

「あんさんはわいのライバル(恋敵)に認められたっちゅーこと♪」

 それを聞いたとたん、ミリアは露骨に嫌な顔をして、

「・・嬉しくねぇ・・・・」

 と呟いた。

「そりゃそうやろなぁ」

 あっはっは、と笑いながら、インドラはミリアの肩を叩く。

「けど、わいにも理由あるんやし・・・好きなもんはしゃーないやん・・・」

「へ?」

 本当に小さな声で言ったその言葉はミリアの耳にはとど行かなかった。もう一度聞こうとする彼女に、インドラはにぱっと笑顔を向けると。

「あっ!」

 彼女の手の中にあるチョコをさっと盗ってしまった。

「ちょ!返しなさいよ!!」

「これはわいからあいつに渡しといたる。お前さん、今からあの嬢ちゃんのメンテやろ?」

 そう言われて、我に返る。今日はリンのメンテナンスをする日だったのだ。時計を見ると、約束をしていた時間まで、あと5分といったところだった。

「安心しぃや、いくらライバルのもんやからってゴミ箱に捨てたりせやへんし。んな女の腐った奴がするような事はしたないし〜♪」

 そう言った彼の顔は笑っているのにどこか寂しそうで・・・

「ほれ、はよ行かな、嬢ちゃん待たしたらかわいそうやろ?」

 何かを言おうと口を開いたミリアに何も言わせないように、早く行けと背中を押す。彼女は、一瞬何かを言おうと振り返ったが、笑顔で手を振られ、約束の時間も押し迫っている事もあり何も言わずにその場を去った。

「ライバルの世話するやなんて・・・わいって結構お人好しやん?」

 ミリアの背が見えなくなると、そう呟いて苦笑して・・・

「ほな、荷物を届けに行きますかいな」

 軽く伸びをして総監室を出て、アポロの部屋に向かって歩き出した。

 

 END



後書き

月臣様のHPのTOPイラストを見て書き上げたこの小説・・・・

ごめんなさい・・・私自分の気持ちには正直になりたいんです(爆)

初めてイラストを見たとき、嬉しい反面、なんと言っていいのか・・・とても複雑な心境でした(^^;

で、結局こういう形になってしまったと・・・・

月臣様の小説の方を読む前に書いたので、微妙に時間軸とかずれてたりします(爆死)





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