影男〜過去編〜
誰もその存在を信じようとしない でも男は存在している 信じようが信じまいがそれは人の勝手だ たとえ信じなくたって 存在するものは存在しているのだ ・・・影男・・・ 誰がそう名付けたのかは知らないが男はそう呼ばれていた いつからそう呼ばれていたのかそれは本人も知らない そして何年の時を歩んできたのかも・・・ 過去編『真実を知る男』 雨が降る日の事だった男は疲れを癒す為に大木の前に腰を下ろす 空の様子を見る限り雨はしばらく続きそうだ −仕方がないな・・・今日はここで休むとしよう− 溜め息を吐きながらも男は袋をあさってみる 袋の中身は寂しくいくらあさっても飢えや渇きを癒してくれる食料や水は入っていなかった −もう何年ほど食べて無いのだろうか− と、男は思った 思えば自分は飢えや渇きを感じていない事に気づいた さらには疲れを癒す為と休んでいるが実際は疲れなどもしていなかった −何故、休むなどと考えたのだろう・・・疲れてさえもいないのに・・・− 男は袋に入っている傷だらけのロケットを取り出した ロケットを開くとヒビの入ったガラスの奥に小さな子供の姿が写った写真が現れた 一人の少年と少女がガラス越しに笑顔を見せている −気づいた時から持っている− 写真を見ながら男は思った −持っている意味は無い・・・捨てても問題も無いはずだ− −けれど俺はこれを捨てる気にはなれない・・・それに何故だかこれを見ていると気分が落ち着く− 写真を見ながら男は笑ったような気がした実際は顔が無いため笑ったなんて思わないのだが・・・ −不思議なものだ・・・− 男はロケットを袋にしまうと再び木にもたれた それから、しばらくして・・・・ 雨がさらにきつくなって来た頃・・・ 男は道の向こうから駆けてくる人影を見つけた 人影は男の腰を掛けている大木に入ると大きく深呼吸をしている −女・・・か・・・− それだけ確認をすると男は道の方向に目を戻した ずっと遠くに見える山の風景もさすがに見えなくなるほど空は暗くなっていた 『「・・・・今日はここで一晩を過ごすしかないか」』 同時に声を発した時に女は男の存在に気づいたらしい男の姿を見つけると女は少し笑いながら男に喋りかけた 「迷惑だったか?」 『・・・・・・・・』 男は何も喋らないまま暗闇を見ている 「ここの木、私も使っていいか?」 『・・・木に聞け・・・』 「ありがとう」 ぶっきらぼう返事を返す男に変わらぬ調子で女は答えると大木の裏に回り 「少し着替える、覗かないでくれよ」 と、からかう調子で男に言った 『・・・馬鹿が・・・』 と、男は小さな声で言った いったいどこに知らない男に着替える事を伝える女がいるんだ? と、思っていた しばらくしてさらに雨が強く降り始めついには雷まで鳴り始めた 真っ暗な闇を雷の光が駆け抜ける 「本当に助かったよ、ここから追い出されていたらひどい目に遭っていた」 『・・・そうだな・・・』 相変わらず男は暗闇を見ながら返事一つで返していた 「そうだ、せっかくなのだから・・・自己紹介でもしようか」 『自己紹介だと?・・・知らない奴に自己紹介をしてなんになる?』 「ふふ・・・旅は道連れと言うだろう?こうなったのも何かの縁だ・・・それに、自己紹介は知らない人に知ってもらう為にするものだろう?」 そんな女の提案に男は溜め息をついたが女の方は構わずに話を続ける 「私の名前はシーナ、好きな物は甘い物全般、嫌いな物は・・・・そうだな・・・多分・・・ない」 『・・・なんだ、その間は?』 男の問いにシーナは苦笑しながらも答えずに話を進めた 「まあ、特に苦手な事は無いな・・・特技と言ったらいいのかな・・・まあ得意な事は」 『・・・剣術か?』 自分の答えようとした事を先に答えられサヤは驚いた顔をして男を見た 「よくわかったな?」 『刀を肩に掛けているからな』 と、男が答えてようやくハッとした なるほど確かに刀を自分の肩に乗せている これなら素人でもわかるなとシーナは苦笑した 「まあ、いちよう私はこれでも剣士なんだ」 『・・・そうか・・・』 「じゃ、次はそっちの番だな」 『・・・名前は・・・無い・・・好きな物も特に無い・・・嫌いな物はありすぎていちいち答えていられん・・・』 「・・・それじゃあ自己紹介になってないじゃないか?」 シーナは困ったように男に言うが男は本当の事だと言って黙りこんでしまった 「せめてなんて呼べばいいのかくらい教えてくれ」 と、男に言うとしばらく考えた後にこう答えた 『・・・人は俺の事を影男と呼んでいるが・・・そうだな・・・ジャックとでも呼んでくれ・・・』 「わかった」 しばらく沈黙が続いた・・・ 稲光が暗闇を明るく照らす中シーナは少し気になる事を聞いてみた 「なんで、影男って呼ばれているのだ?」 『・・・化け物だからな・・・』 「えらく人間臭い化け物だな」 『おまえは俺の姿を見てないからな』 「まあ、そうかもしれんな」 シーナは自分の荷物から包みを取り出すとその包みを開き中の物を口に運んだ 『・・・?なにを食べている』 「饅頭だ、旅人たるもの少しでも体力を蓄えておかないとな・・・ジャック、一つどうだ?」 『・・・・いらん・・・・』 「しかし、見たところその袋には何も入っていないようだが?」 『・・・俺は・・・飢えも渇きもしないからな・・・』 「そうか・・・悪かった」 何故、シーナが謝ったのかはわからなかったが 影男はまた視線を暗闇に戻した 雷は止んだが雨は先程よりも強くなっている 『そういえば・・・おまえは何の為に旅をしている?』 「・・・人を捜しているんだ・・・」 『・・・そうか・・・』 「ジャック、君はどうなんだ?」 『・・・俺か・・・俺は・・・何の為歩いているのだろうな・・・歩き始めたのは今でも無いが目的なぞあったかどうかもわからない』 「それじゃあ、つまらないだろう?」 『ふっ・・・まあな・・・挙句の果てには姿まで変わり果てて・・・自分の姿さえも思い出せん・・・』 影男は帽子を深くかぶっていた帽子を取る 暗闇でよく確認できないが黒い霧のような顔と青く輝く目がゾッとするぐらい冷たく光っている 「影男・・・か」 『よくわかっただろう・・・これが俺が化け物と呼ばれる由縁だ・・・』 「私はもっとこう別の物を期待したのだがな」 と、シーナは笑いながら答えた −・・・・変な奴だ・・・・− 影男は帽子をかぶりなおしながらそう思った 今まで自分の姿を見た者は少なくともこう笑う者はいなかった 恐怖に駆られ逃げ出す者や疫病神だのなんだのと疎まれていたものだが −・・・・変な奴だ・・・・− 「いや、すまないな・・・・気を悪くしたなら謝るよ」 『・・・・・いや・・・・・』 「そうだ、良かったらその宛の無い旅の話を聞かせてくれないか今夜は眠れそうな気がしない」 『・・・・・いいだろう・・・・・』 ・・・・・・・ 気づいてみれば長い時間話していたものだ・・・ いつの間にか完全に自分の言う『変な奴』に何もかも話してしまっている 思えばこうやって誰かと話すのはすごく懐かしい気がする 今まで旅の中で話してくる事や話しかける事など一度もなかった 「・・・・それから、どうしたんだ?」 『・・・・山を越えて・・・・』 何故だろう −・・・・不思議なものだ・・・・− 『・・・・話はここまでだ・・・・』 「いや、なかなか面白かったよ」 いつもならこんなに話す事なんてしようとしない 人と関わる事さえも疎ましく考えていた 「・・・寒いな・・・」 『・・・季節的には夏とはいえ夜の雨は体温を奪うからな・・・』 「そっちに寄ってもいいか?」 『・・・・・好きにしろ・・・・・』 影男がそういうとシーナは体を影男の背中に預ける 「悪いな・・・本当に何から何まで・・・」 『・・・旅は道連れなのだろう?・・・気にする事はない・・・』 「ふふ・・・そうだな」 『・・・・・・』 何故だろう・・・ 何故なのかわからない 本当に懐かしく感じる 「なんだか思い出すな昔よくこうやって傍にいた奴の事」 『・・・・・・・?』 「私は人を捜しているっていっただろう?」 『・・・・ああ・・・・』 「小さい頃、私と同じ年ぐらい男がいてな・・・・そいつとは毎日のように剣の稽古をしていたんだ・・・・そして終わったらこうやってずっと話したりしていた」 『・・・・そうか・・・・』 「はじめは私のほうが大きかったし剣も強かったのだが・・・・いつの間にか背は追い抜かれて剣の強さも向こうの方が強くなっていた あの時は悔しかったな・・・・本当に悔しかった・・・・本気でかかってもとうてい敵わなくなってすごく悔しくて泣いた覚えもある 何度も何度も挑戦してそのたびに負けて泣いて・・・・いつも背中ごしに謝られたっけ・・・・恥ずかしかったな・・・・少し・・・・ いつのからかな・・・そんな、あいつが気になり始めたのは・・・・でもすぐに争いが起こってあいつは戦場に駆り出されてそのまま・・・ ずっと帰って来ないもう五年たつのかな・・・・約束をしたのに絶対に帰って来るって・・・」 『・・・・・・・』 「ふふ・・・・湿っぽくなってしまったな・・・・」 『・・・気にする事は無い・・・』 「そうか・・・とにかく私はその帰って来ない馬鹿を捜しているわけだ」 シーナはそういいながら袋の中からロケットを取り出して影男に渡した 影男はそれを見てギョッとした −・・・まさか・・・− 手の内あるロケットは自分の物と比べると傷一つ無く淡く銀に光っている そしてロケットを開くと中にはあの写真が入っていた 小さな子供の姿が写った写真・・・ まったく同じ物がロケットのガラスの向こうにあった 「これはな世界に二つしかないものなんだ・・・この頃はまだ私の方が背が高かった・・・二年ぐらいして抜かされたが」 笑いながらロケットを受け取りシーナは袋にしまう 影男はただ呆然と手を見ていた もう雨は止み朝日が昇ってきている 「ジャック、私はもう行くよ」 シーナはそう言って自分の荷袋を持つ 「また、どこかで会えるといいな」 『・・・生きていればまた会える・・・』 それもそうだなとシーナは笑いそして去って行った 一人残された影男はゆっくり立ち上がり空を見上げる 自らの記憶が頭を駆け巡ると同時に影男は先程シーナが去って行った道を見た すでに彼女の姿は見えなくなっている 影男は袋から傷だらけのロケットを取り出しそれをしばらく眺めながら思った −・・・俺は真実を教えるべきだったのだろうか・・・− 細い鎖が風に揺れ擦れ合って小さな金属音が鳴り響いた ほとんど聞き取れないようなか細い音が何度も何度も・・・・ ・・・・何かを訴えるように・・・・ ・・・・ずっと反響していた・・・・ END |
|
感想 FOX様の完全オリジナルなお話と聞いていて、かなりわくわくして読んでました(笑) 読み終えた後も、私はこのお話好きだなって思いましたし、すごく面白かったです!! このお話の中に出てくるジャックさん(あえてそう呼びます)やシーナさんはもう出てこないらしいので、凄く残念です〜 このお2人のやり取り、凄い好きなんですよ(^^; でもでも、まだ他にもこのお話のシリーズがあるそうなのでとても楽しみです!! そしてイラストまでもいただいちゃいました! ジャックさんの後姿・・・凄い雰囲気出てて素敵ですよう!!ありがとうございました♪ |