影男〜異世界編〜



『命の牢獄』

本当に、小さい事だと思っていた事・・・

あまりにも小さくてどうでもいい事だ

そう思っていた事が大きな罪となるときがある


1



『やめろ、はなせっ!!こんちくしょう!!』


一人の男が叫びながら暴れている

その両脇を屈強な看守かと思われる男二人に掴まれ運ばれる

男がどれだけ暴れようが動じず牢獄の中に投げると看守は外から鍵をかける

ガチャリ、と重い金属音が牢獄の中に響く


『わかっているな、マシュ・・・おまえが罪を反省するまでずっとこの中だからな』


『くそっ!!俺が何をしたってんだよ!!』


マシュは鉄格子の間から看守の腕を掴んで引きとめようとしたが

看守は難なくマシュの腕を払うと彼ははずみで後ろに倒れた

そんなマシュに目をくれる事無く看守達はさっさと部屋を出て行ってしまった


『ちくしょう、なんだってこんな所に閉じ込めやがるんだ、出しやがれ!!』


彼は鉄格子を掴みながら叫びちらすが先程の看守は戻ってくる様子もなく

なにやら上の方で鍵をかけるような音が聞こえただけだった


『オイ、コラ!!出せって、馬鹿野郎!!』



マシュは必死に叫んだが看守が戻ってくる様子はなかった



2


暗い牢獄での静かな時が流れてゆく

鉄格子に打ち付けた手がジンジンと痛むのを感じ男は目を覚ました

音もしないこの牢獄の中では退屈で仕方ないのだが

この狭い空間ではどうすることもできないので天井を見上げながらボーっと寝転がるしかない


『俺がなにしたってんだよ・・・』


『・・・この牢獄に入れられたって事はよほどの悪人だな・・・』


暗い牢獄の中で自分のものとは別の声が聞こえた

マシュは起き上がると声の主を探した


『どこを見ている、おまえの前にある部屋だ』


マシュは言われたとおりに自分の牢屋の前にある牢屋を見ると、確かにもう一つの牢屋の中に黒いコートに黒い帽子をかぶった男がいる


『なんだ、お仲間さんか?』


『まあ、そうゆう事でもいいだろう・・・影男と呼ばれている』


黒い男は不気味に笑いながら喋る、その笑い声は低く牢獄の中で響く


『しかし昨日の貴様は笑えたな動物園の檻の中に入れられた猿みたいだったぞ』


馬鹿にした口調で影男は言った、マシュはカッとなり鉄格子を掴むがどう頑張っても向こうに手が届くわけがない


『そういう、テメエだってここに入れられる時はあれぐらい叫んだんだろ!?あんたの言う動物園の猿みたいによ!!』


あきらめてマシュはその場に座り込み言い返すが、影男は小さく『フッ』と笑って相手にしない


『んだぁ、なにがおかしいんだよ!?』


『俺は別にそうでもなかったさ、むしろ入れられて当然と思ったぐらいだ』


牢獄の中で影男の目が青白く光る

暗い場所のおかげでそれがはっきりと目に映る


『入れられて当然ってあんた何をやったんだ?』


彼の質問に答えず影男は目を閉じてしまった

マシュは『チッ』と舌打ちすると影男から目を背けるように横になった


3


この牢獄では時間がわからない

たとえ朝が来ていようがこの牢獄には光がさしこんで来ないからだ

窓もなく穴という穴のない牢獄はいつも暗闇に包まれている

見えるものと言えば、たまに不気味に光る前の部屋にいる住人の目だ


――― いつまで、こんな所でいなきゃならねえんだ ―――


マシュはそう思いながら前の住人を見る

あれ以来からは一言も喋りかけて来ないし、こちらからも別に用も無いので話かけもしない

だが、彼は少し気になっている事があった


――― 少なくとも、俺よりも先にこの牢獄にいるわけだが、いつからいやがったんだ ―――


マシュは横にしていた体を起こすと影男に呼びかける


『おい、だんな!!だんな!!』


『そんなに大きな声を出さなくとも聞こえている』


無愛想に返事が返ってくる

マシュは内心は腹立ちながらもそれを抑えて影男に話かける


『あんた、俺より先にこの牢獄に入っていたみたいだが、ここにどれぐらい間いるんだ?』


『聞きたいか?』


マシュは影男の問いにゆっくり縦に首を振った

影男は帽子を深くかぶった後に少し考える格好を取ったが、すぐに終わるとこう答えた


『もうすぐ、後三日で刑期の終わる千年ほどになる・・・』


『千年っ・・・・!?』


マシュは驚いて、普通の人なら飛び上がるような大きさで大声を上げたが、影男は別にたいした事なさそうに帽子をかぶりなおしている


『千年って、あんた・・・どれぐらいの年月かわかっているのかよ!?』


『どうした、何を驚く?』


影男は変わらない口調のまま笑い始める

マシュにとってはこんなに理解できない状況はない

こんな場所に千年も閉じ込められていてよく気が狂わないものだ、いや・・・

よもや狂っているのかもしれない


『なにを笑ってんだ、千年って事は人生の十回はここで暮らしているって事になるんだぜ!?』


『あたりまえだ、何をいっている、気でも狂ったのか?』


影男は笑いながら言う

マシュはまったくわけがわからず、ただ呆然と黒い男の笑い声を聞いている

影男は笑い終わると一息ついて少し目を光らせて言った


『いや、悪いな・・・だが、しかし、ここに来たという事はそれほどの事をしたのと一緒なんだが・・・』


『どういう意味だよ?』


マシュは頭を抱えて痛みを抑えるかのようなポーズをしながら黒い男に聞く


『ここが、なんと言う場所か、おまえは知っているか?』


マシュは何も喋らないまま首を横に振る

『だろうな・・・』と影男は起き上がりながらいった


『ここは『命の牢獄』と呼ばれる場所だ・・・生きていた時に『命』に関係のある罪を犯した者だけが訪れる場所だ』


『・・・『命』だって?』


『例えば、殺人とかな・・・』


『殺人だって、俺はそんな事してないぞ!?』


マシュは立ち上がって鉄格子ごしに叫ぶが、影男は何も話さずにこちらを見ている

彼は心を落ち着けると座り込み考えるようなポーズをとって影男に聞く


『あんたは何をやらかしたんだ?』


『俺か・・・俺は元軍人だったのさ・・・生き残る為に敵兵士を何人も殺した』


『なんだよ・・・仕方ないじゃねえか』


『本当に・・・そう思うか!?』


突然、影男は声を荒げてこちらを睨んでくる

マシュを青白く光る眼が捕らえている


『罪無き女や子供、老人・・・戦争に参加していない人々も巻き込んでいたのだぞ?』


『そ、そいつは・・・』


『生き残る為なら仕方ない、確かにそうかもしれないな・・・だが、その為に人を殺しているのも確かな事だ・・・許されることではない!!』


影男の迫力に押され男は一言も喋らずに黙って聞くしかなかった

マシュが何も言わずに黙り込んでいる様子を見て影男はため息つく


『実際なら千年でも足りないぐらいの罪だろう・・・実質上に俺の仲間のほとんどは地獄に落とされた』


影男は壁にもたれかかって帽子を深くかぶり眼を閉じる

牢屋の中は鎮まりかえり静寂の暗闇が支配も取り返していた


4


日が経つのは早い

もう三日間たったらしく前の住人はこの暗い牢獄を出るらしい、看守が鍵を持って牢獄の扉を開ける

影男はいつもと変わらない様子のまま牢獄から出てくる

それを確認した看守は再び鍵をかけなおすと影男に言った


『わかっているな・・・言いたい事は?』


看守の質問に影男は『ああ・・・』と返事する


『今からここから出る手続きをする為に、別室に移動するからな、ついて来い』


看守にいわれたとおりに影男は看守の後について牢獄の部屋から出ようとした時だった


『待ってくれ、看守さん!!』


マシュが看守の腕を掴んで引き止めようとするが、看守は無情にもその手を振り払うと部屋から出て行く


『待ってくれ、頼む・・・俺が何をしたのか教えてくれっ!!』


そんな声が看守と影男の後ろから聞こえていたが、看守に連れられ影男が出たのを確認すると扉をガッチリと閉め鍵をかけてしまった

マシュの声も聞こえなくなってしまい、影男は鍵をかけられた扉を見ていると看守が声をかけてきた


『どうした、気になる事でもあるのか?』


『いや・・・奴の罪状はなんだ?』


看守の後について歩きながら影男は聞いてみる


『マシュの罪状か・・・これだ・・・』


一枚の紙が渡され影男は目を通す、そこにはこう書かれていた



マシュ・アイシールド

罪状:『殺し』人為的にアリを踏み潰し命を奪うという暴虐な行為をした為・・・・



影男は『・・・なるほどな・・・』と小さく呟いた


――― ・・・はたして、本当に小さな事だったか?・・・ ―――


影男は先程の牢獄にいた男の姿を思い浮かべながら心の中で質問する

だが、心で問いかけた質問に返事が返ってくるはずもなく・・・

冷たい無機質の廊下から足音が返ってくるだけだった

 

END







感想

FOX様の完全オリジナルなお話第2段でございますー!!

今回のお話しはなんだか考えさせられる物でありました・・・

特に今はニュースでも『命』が消えてしまうという報道が多いので・・・・

どんなに小さくても、生きている物の命を他者が奪うのはいけないことなんですよね。

マシュさんはいつになったらこの場所から開放されるのでしょうか・・・・





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