しっぽの気持ち
人間は嫌いだ・・・自分たちの都合で私たちを作ったくせに・・・結局すぐに飽きて私たちを捨てた・・・・人間は・・・嫌いだ・・・・
「ボス!BブロックのポイントFに人間の反応が!」 「・・・・追い返せ・・・ここは人間の来る所ではないという事を解らせてやるんだ・・・」 「了解!!」 ここは人間の住んでいる街からかなり離れた場所にあるさびれた廃墟。人間にとっては何もないこの場所が、私たちp−REPRI(ピーレプリ)・・・ペット用に開発された猫型レプリロイドの最後の『エデン(楽園)』・・・ 「ぼしゅ・・・にゃにかあったにゃ・・・?」 「・・・マオ・・・何でもないよ・・・」 この子は私の娘として開発された・・・名前は『マオ』、私の付けた名だ。私の夫はマオが生まれる前に売られていった・・・風の噂でイレギュラーとして処分されたと聞いている・・・美しい毛並みの人だった・・・ 私は実の娘であるこの子にも私を呼ぶときは『ボス』と呼ばせている、けじめをつけるために・・そのためこの子は今まで一度も私を「お母さん」と呼んだことはない。 「ぼしゅ・・・まお、いちゅににゃったりゃしょとに行っていいにゃ?」 ・・・子供ならば当然のこの質問に、私は答えることができなかった・・・・このエデンから一歩でも外に出てしまえば私たちは人間にイレギュラーとして処分される・・・何もしていないのに、だ・・・この子も例外ではない・・・何も知らずに外に出ればすぐさま殺されてしまうだろう・・・ 「・・・もう少し・・勉強してからな・・・」 苦し紛れの嘘・・・・勉強すればするほど外には出ることが出来ないと解るのに・・・ 「失礼します!!・・・あの・・ボス・・」 「・・・どうした?」 「さっきの人間の反応の正体なんですけど・・・」 「はなせ!はなせよ!っこの!!」 部下の一人が連れてきたのは・・人間の子供・・・おそらくまだ10歳に満たないであろうその子供は襟首をつかまれながらも威勢良く叫びながら抵抗している。 「・・・マオ、向こうに行っていなさい」 「はいにゃ」 マオが見えなくなるのを確認し、私はその子供にここに何をしに来たのか聞くことにした。 「小僧・・・お前、ここに何しに来た・・・ここは子供の遊びに来る場所ではない・・・」 睨み付ける私に、一瞬顔を強張らせたが、すぐに負けじと私を睨み付け・・・ 「おれは小僧でも子供でもない!!おれの名前はイリアだ!!」 単なる強がりにも見えるが・・・この年の人間にしては珍しく、なかなか肝が据わっているな・・・ 「たとえ何されたってお前らの言うことなんか聞くもんか!!」 「・・・・くッ・・くくく・・あっはっはっはっは!」 突然笑いだした私に、部下もイリアと名乗る子供も呆気にとられていた。 「ククク・・・すまんすまん・・・気に入った。イリアとかいったな、お前のその度胸気に入ったぞ。私の名は夜叉(やしゃ)どうかここに来た理由を教えてはくれないか?」
どうやらイリアは昔自分が飼っていたp−REPRIを探しに来たらしい。 「そいつの名は?」 「・・・・・・サクラ・・・・」 確かにその名前は私たちの仲間の名前だ。淡いピンク色の毛並みのp−REPRI・・・ 「サクラは・・・おれの友達なんだ・・・パパもママもサクラの事おれには何も言わずに捨てたんだ・・・だからおれ、サクラに会いたい・・・・会って・・・謝りたい・・・」 ふむ、10歳未満の子供の考えとは思えんな・・・だがイリアの気持ちは本物だ・・・さて、どうしたものか・・・ 「もし、サクラがお前に会いたくないと言ったら・・・どうするつもりだ?」 もちろん考えておくべきだろう・・・ 「そんな事ない!サクラが、そんな事言うもんか!!」 ・・・子供とはなんと頑固な生き物なのだろうか・・・今までも人間の子供の相手を何度かした事はあった・・・・そのたびにその頑固さに頭が痛くなることもしばしば・・・私の運が悪いだけかもしれんが・・・しかたがない・・・ 「サクラを呼んで来い」 「え!?良いんですか!?」 「かまわん、早くいけ」 「りょ、了解!」 部下の一人にサクラを呼びに行かせる、あいつが名前を変えていないのも、まだイリアを信じている証拠だしな・・・ 「イリア!!」 サクラは部屋に入ると同時にイリアに抱きついた・・・ 「サ・・サクラ・・サクラァ・・・ごめんね・・ごめんねぇ・・・・・」 腕の中で謝りながら泣き出すイリアをサクラは優しくなだめていた。 「もう・・君って子は・・・・どうしてこんな所まで・・・・」 「だって・・・っく・・・・だって・・ぐす・・おれ、サクラにさよならも言ってな・・っく・・・・」 「・・・イリア・・・」 私は部屋を後にした・・・
その日からイリアはよく遊びに来るようになった、もともと私たちは人間のペットとして作られていたため、皆イリアを受け入れることにほとんど抵抗はなかった・・・だが・・・
「ここだ!!ここにいるイレギュラーがうちの子をさらったんだ!!」 ひどい濡れ衣だ、人間とはなんと偏った考えしか出来んのだろうか・・・そして・・やつらが入って来た・・・私たちのエデンを踏み荒らし、私たちの話を聞こうともせず次々と仲間を殺していった・・・ はじめ私たちは逃げていた・・・下手に抵抗して、死者を出したくなかったのだ・・・・だが・・・ 「うにゃ!!」 「マオ!?」 逃げている途中でマオが足を絡ませ倒れてしまった!私はとっさにすぐ後ろでセイバーを振り下ろそうとした人間を・・・・・殺した・・・・・・・
「ボス!これから私たちはどうすれば!?」 「・・・お前たちは逃げろ・・・私が・・ここで奴等をくい止める・・・・」 「!?一人でなんて無茶です!!我々も・・・・」 「お前たちはまだイレギュラーに認定されたわけではない、だが私は・・・人間を殺した・・・・完璧なるイレギュラーとなってしまったのだ・・・・ハンターに殺されることに怯え、逃げ回るくらいなら・・・今ここで派手に暴れてやるさ・・・・」 「・・・ぼしゅ・・・?」 「マオ・・・お前も逃げなさい・・・ほかの者達と共に・・・行け!!奴等がここを見つける前に!!」
少し離れた場所にある国道を一台の車が走り抜ける。 「まったく・・・Dr.ケインも人使いが荒い・・・隣町まで買い物に行かせるとは・・・すまんな姫、付き合わせてしまって・・・・」 「いえ・・・」 車内にはイレギュラーハンターの総指揮官であるシグナスと、第0特殊部隊の隊員、闇姫がいた。二人はケイン博士に買い物を頼まれた、その帰りなのだ・・・ 「・・・・!?・・シグナス様!!止まって下さい!!」 外を見ていた姫が急に叫んだ。シグナスはその声に驚き、ブレーキをおもいっきり踏んで急停車してしまった。 「!?ど、どうした?」 車が止まると、姫はドアを開け走り出す。シグナスもそれに続いた。そこで見たものは・・・傷だらけになり、子供を抱えて倒れているp−REPRIだった。 「一体何が?」 シグナスがp−REPRIを抱き起こす。だが、すでに大人のp−REPRIは虫の息といった感じだった。腕の中の子供のp−REPRIは傷も少なく、ただ気絶しているだけのようだ・・・姫が優しくその子供を抱き上げると、大人のp−REPRIが口を開いた。 「た・・・助け・・・・・」 「待ってろ、今ライフセイバーを・・・」 「ちが・・俺は・・・も・・・・ダ・・・メ・・・・・・その・・子・・だけ・・で・・・も・・・・・・助け・・・・」 「何を言っているんだ!」 「ボ・・・・ス・・・・俺・・・先に・・・・・・・・・・・・」 シグナスは動かなくなったp−REPRIをそっと横たえた・・・ 「シグナス様・・・・・・!?」 遠くの方で爆発音が聞こえ、小さな揺れが・・・何かがここで起こっている・・・ 「・・・う・・にゅ・・・・・」 「あら、目が覚めましたのね・・・大丈夫ですか?」 小さなp−REPRIは不思議そうな顔で姫を見ている。 「おねぇちゃんは誰にゃ?」 「わたくしは闇姫と申しますの、貴女は?」 「まおにゃ♪」 元気にそう答える姿をみて、この子は大丈夫だと安心するシグナス・・・だが・・・ ズズズズズズズ・・・・ 二度目の地表の揺れ・・・今度のはかなり大きい。 「!?まま!!」 急に、マオと名乗ったp−REPURIが大声をあげる、二人は驚いたが、その様が尋常でなかったため・・・ 「シグナス様・・・・」 「ああ・・・応答せよ。本部、聞こえるか?こちらシグナス」 『こちら本部・・・シグナス?どうしたの、何かあったの?』 「ブロックE−708にて奇妙な地表の揺れを感じた、おそらく何かの爆発があったと思われる。我々はこれから現場に向かうが、至急援護を頼む」 『ちょ、シグナス!貴方、自分が戦闘には向いてない事解っているでしょう!?』 「ああ、だがまったく出来ないわけでもない。急いでいるのだ、頼んだぞ」 そういって通信を切ってしまった。 「・・・よろしいのですか?」 シグナスはほとんど使われた事のないサーベルの電源をONにする。 「かまわん・・・だが、おそらく私は自分のことで手一杯になってしまうだろう・・・その子の事は任せたぞ・・・」 「・・・御意・・・」 二人はマオを連れ、爆音のした方向に向かって駆け出した・・・
何と言うことでしょう!!・・・わたくし達の目の前に広がった光景はあまりにも酷いものでしたわ・・・ 「これは・・・・・何と言うことだ・・・・」 シグナス様も呟く様におっしゃられました・・・ 「まるで戦争ではないか!!」 あちらこちらに人間とp−REPRIのご遺体が・・・潰された方、腹部を切り裂かれ身体が二つになってしまっている方・・・中には原型を留めていないほど切り刻まれた方もおりました・・・わたくしとシグナス様は辺りに気を付けながら進みましたの・・・・マオさんのお母様のことが気がかりでなりません・・・・ 「!?まま!!」 急にマオさんが走り出し、倒れているp−REPRIのそばまで行きましたの。 「まま!ままぁ!!」 「・・・・・マ・・・オ?」 「ままぁ!!」 マオさんのお母様はとても酷い状態でした・・・手足は潰され、頭部も叩き割られており・・・アイセンサーが剥き出しの状態でしたわ・・・ 「何故・・・もど・・・ってき・・・た?」 「まお、一人はイヤにゃ!!ままと一緒がいいにゃ!!」 「我が・・・・侭・・・を・・・言うんじゃ・・・・ない・・・・み・・・ろ・・・私・・の・・・手は・・・もう・・・お・・前・・ヲ・・・・ダ・・・くコ・・と・・モ・・・・・・・・」 キュゥゥゥゥゥゥ・・・・・・・・・・ 不意にした機械の止まる音・・・マオさんのお母様は・・・もう・・・・ 「まま?・・・・・・まま!!まま!!!イヤにゃ!!イヤにゃ!!まま!ままぁ!!!」 わたくしは・・・なにも出来ずにただ呆然と見ている事しか出来ませんでした・・・・・
数ヶ月後
「結局、あの事件は解決したのか?」 総監室でゼロが不意にシグナスに質問をする。 「・・・あの事件?」 「お前が拾ってきた猫のだよ・・・」 「ああ・・・・」 シグナスは少し考えたが、黙っていても仕方がないと考え、話し出した。 「解決と言うよりは・・・上がもみ消したと言った方が正しいな・・・もともと事件発生のきっかけとなった少年の誘拐事件も、両親の思い込みが原因だったらしい・・・少年が心を閉ざしてしまった事も全てp―REPRIのせいだと思っていたそうだ・・・」 ゼロは軽く肩をすくめた。 「・・・なんとも人間ってのは・・・っと、そういやその子供はどうなたんだ?」 「・・・少年もあの場所にいた・・・奇跡的に助かったとニュースでは報じられていたが・・・実際は・・・サクラと名付けられたp―REPRIが命がけで守っていたらしい・・・・結局・・・あの少年とあの子以外・・・助ける事は出来なかったな・・・」 「・・・・・・」 「しぐにゃす〜♪」 重苦しい空気がただよっていた司令室が、マオの出現により急に明るくなった。 「見て見て♪姫が付けてくりぇたにゃ♪」 私服姿のマオの頭には、大きな赤いリボンが付いていた。それを嬉しそうにシグナスに報告に来たのだ。 「似合うかにゃ?」 「ああ、良く似合っている・・・どこか出かけるのか?」 「にゃ♪行ってくりゅにゃ〜♪」 見送ったあとにゼロの一言・・・ 「お前・・・あいつの父親みたいだぜ?」 「!?」 苦笑しながら言うゼロに、シグナスは何も言い返せなかった・・・
FIN |
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