とりぷるでぇと♪



「えっ・・・トトト・・・トリプルデー・・・ト・・・?」

パソコンの前で、ちょっと間の抜けた声を出すアリスに、コクンとリングが頷く。

アリスの隣では翡翠がショリショリとリンゴの皮を剥いていた。

だが、少し翡翠も興味があるらしく、ピクンとネコミミが動く。

『そう。ダブルデートっていうのは珍しくないけどトリプルなら・・・ね?』

「ででで・・・でも!ぼくはまだ・・・」

『今日で治るって言ってたでしょ?大丈夫。私達がそっちに行くから♪』

顔を真っ赤にするアリスだったが、リングはそんなのお構いなしに話を続ける。

う〜、と唸りながら、アリスは俯いてしまう。

翡翠は隣で椅子に座って、皮を剥いたリンゴをシャリシャリと食べる。

アリスのために剥いたのだが、話の腰を折る気はないのだろう。

「あ・・・ところで・・・ぼくとリングさんと・・・あと一組って・・・」

『ん?いるじゃない。アリスちゃんの隣に』

そう言われて、アリスは自分の隣にいる同い年の少年を見る。

パソコンの向こうにいる少女とベットに体を起こして座っている少女に見られて、思わずリンゴを落とす。

「な・・・なに?」

「あ、そっか。翡翠にはマオちゃんがいるもんね♪」

ガタガタン!!

盛大な音を立てて椅子ごと倒れた翡翠に、からかうような言葉を放ったアリスは慌てる。

くっ・・・とうめき声を上げる翡翠に、天才と呼ばれた姿は影も形も無かった。

なんとか立ちあがると、服をパンパンとはたくと、ガタガタ椅子を戻して座りなおす。

その頬は少々朱色を含んでいたが。

「ぼ・・・僕とマオちゃんはそんなんじゃないよ!」

『あれ?知ってるけど?この前、マオちゃんをデートに連れていったらシグナスさんに大目玉もらったんでしょ?』

「なんで知って・・・!!」

翡翠は慌てて口を押さえるが、クスクスと隣から笑い声が聞こえる。

真っ赤になった翡翠は、膝の上に置いていた白衣を着ると、足早に部屋を出ようとする。

「翡翠?行くでしょ、明日?」

「・・・任せるよ」

遠回しな答えだったが、アリスとリングはお互いに笑い合う。

笑い声が気に障ったのか、翡翠は勢いよくドアを閉めると、走っていってしまった。

それと入れ替わりに、不思議そうに翡翠が走っていったであろう方角を見ながら、ウィルドが入ってくる。

「あ・・・じゃ、また夜にね?」

アリスはそう言ってパソコンの通信を終了する。

自分が入ってきたとたんに通信を切ったので、ウィルドは不服そうな顔をして口を開く。

「アリス、今の誰?」

「んーっとね、ちょーっとね?クロスさんと・・・」

アリスの口から出た相手の名前が親友であってホッとしたようだが、ちょっと気に入らないようだった。

それをみてアリスは笑うと、手をヒラヒラとさせる。

「ふふっ・・・嘘。リングさんだよ。これでもぼく、あれから注意してるんだから」

「・・・でもさ、なんの話・・・?」

「ん〜・・・夜になったら詳細は教えてあげるけど、とっても面白い事!」

にっこり笑って言うアリスに、ウィルドもつられて笑う。

ウィルドは思い出したように花を花瓶に入れると、先ほどまで翡翠の座っていた椅子に座る。

そして、ポケットからカードの束を出すと、嬉しそうに話し始める。

「そうそう!今日さ、カードゲームで・・・」

アリスはウィルドの話している事がよくわからなかったが、熱心に聞いて応答していた。

カードゲームの話をウィルドは楽しそうにする。

だからアリスも楽しかった。

ゲームのやり方等はわからなかったから、理解は出来ないけど、聞いているだけで楽しかった。

「・・・あ、ウィルド・・・」

「ん?」

「明日、予定開けといてね」

「なんで?」

ウィルドが聞いても、アリスは悪戯っぽい笑みを返すだけだったが、ウィルドは頷いた。

 

 

 

 

「ん〜・・・クロスさん、こっちでいいの?」

「・・・俺も長い事こっちに来てないからなぁ・・・多分こっちで良いと思う」

このあたりのガイドマップのような物を片手に、キョロキョロしながらクロスとリングが歩いていく。

ギリシャ支部にいってからかなりの月日が経っているので、正直迷いそうになっていた。

「あ・・・クロス!!」

突如聞こえた声に、クロスが顔を上げると、遠くでウィルドが手を振っているのがわかった。

それを見て、クロスも手を上げて返す。

ウィルドの隣にはアリス、マオと、不服そうな翡翠がいた。

デートと言うことなので、アリスが強制的に服を選んだからである。

マオには闇姫が服を選ぶだろうし、ウィルドは自分で服を選ぶだろう。

だが、衣服には無関心だろうと思っていた翡翠には、アリスが念を押していた。

しかし、本当は翡翠も自分で服を選んであったので、それが元で不服のようである。

「くそっ・・・僕だってそれぐらい・・・」

まだぶつぶつ言っている翡翠を、マオは不思議そうに見る。

「・・・で?どこ行くの?」

「まずはそれを決めるために喫茶店に♪」

リングは翡翠にそう返すと、歩きはじめた。

だが、数歩歩いて立ち止まる。

「・・・リングさん?」

「ごめーん!私、喫茶店の場所わかんないんだった!」

 

 

 

 

喫茶店を何件も回ったが、こんな日にかぎって混んでいたので、男女で分かれて座っていた。

「なぁ、クロスは変わったよな?」

「そうか?」

「ああ!リングちゃんのおかげだな」

自分の彼女の名前を出されて、ちょっと顔が赤くなるクロス。

それを面白がって、ウィルドは笑うと更に続ける。

「もう泣かしてないだろうな?」

「・・・痛い所をついてくるな、お前は・・・」

「・・・泣かしたのか?」

「・・・一回・・・俺が倒れてる時に・・・アポロ兄さんがそう言ってた・・・」

顔を引きつらせて言うクロスを見て、ウィルドは苦笑する。

だが、ここぞとばかりにクロスが反撃を開始する。

「お前も、アリスちゃんのこと、泣かせてないだろうな?」

「・・・」

「一度、アリスも豹変したけどね。誰かさんのせいで・・・おまけに死にかけ」

目を閉じながら放たれた翡翠の一言が、ウィルドに突き刺さる。

飲んでいた飲み物を置いて、ウィルドは顔を隠すように手を顔に当てる。

「・・・豹変って・・・泣かすより酷いじゃ・・・」

クロスは言葉を止めた。

ウィルドの表情と、ウィルドの周りが真っ暗になっていたからだ。

「・・・まぁ・・・いろいろあるよな、気にすんなって!」

「うるさい。急に優しく諭すな・・・」

落ちこんだウィルドと、それを浮上させようとするクロス。

そしてそれを無視してぼーっとコーヒーを飲んでいる翡翠がいた。

 

 

「ふぅ・・・」

「リングさん・・・」

「なに?」

「どうして男の人って無茶ばっかりするのかなぁ・・・?」

アリスの急な質問に、リングは苦笑する。

大分思いつめていたようで、アリスは俯いている。

「任務の時も・・・怪我ばっかりして帰ってきて・・・怖いよ・・・一人で部屋にいるのが・・・」

「アリスちゃん・・・」

「ぼくが一人で・・・眠っちゃったらもう帰ってこないかもって・・・独りになっちゃうんじゃないかって・・・」

そんなアリスの頭に、ぽん、と手を置くと、撫でながら優しく言う。

「・・・私達は、あの人達が帰ってくる場所を、作っておけばいいんだよ?」

「帰ってくる・・・場所・・・?」

「クロスさんもそうだけど・・・絶対に帰ってくるの。どんなに怪我をしても」

テーブルに肘を突いて、笑いながら話す。

「だから、安心して待っていればいい。ウィルドくんだって、強いでしょ?」

「・・・うん!」

アリスは笑顔になって、隣を見る。

「・・・んにゃ?にゃに?ありしゅ?」

「ん・・・なんでもない!」

「あ、そうだ!マオちゃん、翡翠くんって、マオちゃんにとって何?」

リングの質問に、マオはうーん、と唸ると、ケーキを一口食べて、笑いながら言う。

「ひしゅい君はね!お友達!」

嘘をついていないであろう笑みを見せて言うマオをみて、リングとアリスは笑いあって、

「「翡翠(くん)も大変だね?」」

と言い合った。

「・・・あれ?リングさん・・・」

「あ、これ?」

そう言って、自分の唇を指差すリング。

アリスは無言で頷く。

「ちょっと・・・背伸びかな?クロスさんが気付くかはわからないけど・・・」

 

結局それからは、アクセサリーや本、映画などを見て、時間が経過していった。

「・・・そろそろ、戻らないと・・・」

リングが腕時計を見ながら言う。

(・・・そうだ!)

 

 

ま・・・アリスが怪我した時、助かったしな(ウィルド)

久しぶりのこっち・・・だしね(翡翠)

退院祝い・・・だな(クロス)







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